次期車両運搬具調達(9)
兼好法師に曰く「つれづれなるまゝに、日ぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書き付くれば、あやしうこそ物狂ほしけれ。」などとありますが、マアあれですわな。大体が適当なことを思いつくままにダラダラと書きながらあーだこーだするのってなんだかんだ言って楽しいんですよね。毎日更新(とはいえ「本日の更新」をエントリに含めるのはかなり忸怩たる思いがある)なんて手間と時間をかけてガタガタやってますけども、なんとか続いているのは少なくとも多少なりとも楽しいからなんだろうなぁなどと思いつつ。
アカデミックなヨタ話でありましたが、次期車両運搬具調達のお話の続きであります。
前回「"as a fun, interesting and joy"としてのクルマ」という観点でトヨタ・ヴィッツとマツダ・デミオで大差がついてこれが決定打かな? いやいやそれだけじゃござんせんなんてところでのヒキ・ジツであったわけでございますことよ。yohichidate.hatenablog.com
マツダは「全世界で2%のお客様」に向けてクルマを売っているんです
ってなわけで、よくよく考えると前回の中見出しがある意味答えそのものになっていたというオチが微妙にあるんですが。
先に答えを言ってしまうとこちらの記事が答えのほぼ全てだったりします。アテクシのヘタクソなgdgdを読むのが嫌な方は、フェルディナント・ヤマグチさんとマツダ藤原常務の丁丁発止のインタビューを是非御覧くださいませませ。
試乗が終わればセールストークであります。そりゃそうですよ。商売なんだから。
ディーラー「試乗いかがでした?」
伊達「うーん、前にも上のグレード*1に乗りましたけど、それと同じく今のカローラⅡからの違和感が無いですね」
ディーラー「そうですか。まあ、詳しい話を中でさせて頂ければ……」
ってなわけで、ショールームに案内されます。ディーラーからしてみればまさに「戦闘開始」であります。
口を潤す飲み物が出てきていよいよ最後の――そして最大の決定打が現れる瞬間です。
ディーラー「今回トヨタの担当さんから伺っている話だと、トヨタさんのヴィッツと比較検討されているという話ですよね」
伊達「そうですそうです。ただ、正直なところクルマとしてはデミオにしたいって気持ちが強いですね」
ディーラー「有難うございます。同じBセグメントカーとして比較したときに今のモデルのヴィッツも凄い良いクルマなんですよね。ただ……」
ここでディーラー氏一息入れます。
ディーラー「いまアクアが出てて中で食い合っている感があるんですよね。あそこを整理すればもっと良いクルマとして売れるのになぁとか他社さんのことながら思ってしまうんですよ」
まるでトヨタのディーラーやモータージャーナリストのような発言であります。ライバルのプロダクトが弱体化するのはコンペティターとしては望むところじゃないのか?
ディーラー「正直、うちはトヨタさんほどの規模でクルマを作れないんですね。その中で絞り込んで作りこんだクルマを出しているんです」
ふむふむ。なんというか多少ぼやかして書いているんですが、実際にはもっとぶっちゃけたトークをしておりまして…… 本当にええんかい、この発言とかそのときは思いましたよ。
ディーラー「マツダってヘンな会社で経営陣から『全世界で2%のお客様』にだけクルマを売ってこいって言われているんですよ」
この発言に思わずビクンとしました。ってのは先にリンクを載せたフェルディナント・ヤマグチさんのコラムで藤原常務が発言していた内容と同じだからで。
ちょいとばかし引用させて頂きましょう。
藤(引用注:マツダ・藤原常務執行役員):もちろんシェアが上がるのは良いことですよ。2%から3%に上げるだけでウチにとってはものすごいことです。ただ2%が3%になっても、大きな戦略は変わらんでしょうね。
F(引用注:フェルディナント・ヤマグチ):2020年にはシェアを5%にしようとか、そういう計画は無いのですか。
藤:無いです。有り得ない。
F:「有り得ない」ですか?
藤:有り得ない。そんなにシェアを取っても、そもそも造れないです。造ろうとしても、お金もないじゃないですか。クルマを作るには工場を建てなきゃならん。工場を建てようとするとお金がいる。そんなおカネがあるのなら、マツダにはやらなければいけないことがいっぱいあるんです。
F:増産体制を敷く前に、やるべきことがたくさんある? それはどのようなことですか。
藤:例えば、東京の方のお店をきれいにしたいですよね。
F:えー? そっちですか。
藤:そっちです。
F:それはなぜですか?
藤:今、マツダには世界中で2%のお客様がいて、そのお客様にまだ満足してもらえていないわけですよ。クルマはまぁ満足してもらえているかも知れませんけれども、クルマを買うとき、買った後、お客様が販売店に行って満足しているかどうか。クルマの販売はサービス業でもあるわけです。
F:うーん、そうかなぁ。販売店がキレイなことって、お客って喜ぶんでしょうか。そんなに大切なことですか。
藤:大事です。クルマはスマホとは違うんです。スマホだったらアプリを自分でダウンロードすればいいし、次の機種に買い換えるまで殆どお店に行くことも無いでしょうけれども、クルマには必ずメンテナンスが必要で、車検がある。セールスが終わった後も、いろんな経験をお客さんと一緒に積み上げていくことが大事な産業なんですよ。
F:用がなくてもお店に来てもらいたいくらいですか。
藤:そりゃそうです。極端に言ったら、販売店をカフェにしてブラっと寄ってもらえるようにしたほうが良いくらいです。クルマ産業って、企画して物を作るだけではないんです。その後の事が非常に大事だと思っています。無理して5%のシェアにするために工場にお金を突っ込むぐらいなら、今の2%のお客様を大事に育てていく方がよっぽど重要です。
F:はー……。
藤:だからシェアじゃないですよ。
F:クルマはシェアじゃない?
藤:クルマは決してシェアじゃない。深さですよ。ファンとの、お客様との関係の深さですよ。
ワシらはしょせん世界の2%。広くより「深く」愛されたい (5ページ目):日経ビジネスオンライン
実はマツダのクルマに興味をもったきっかけというのがこのやりとりでした。
勿論マツダだって営利企業なわけだから、沢山作って沢山売るってことが重要なわけです(規模の経済性なんてことばもあるくらいだしね)。それでも現状の規模感のなかで生き残る術を考えたときに「2%」に対してどうアプローチするか? どうプロダクトを提供するか? ということを真剣に考えた上で信じがたい「クラスを超えた」クルマを作っているということに驚いたわけです。この驚きがアテクシに「マツダ」の三文字を深く深く刻みこむエクスペリエンスだったわけであります。
さらにディーラー氏は続けます。
ディーラー「トヨタさんみたいなやり方はとても出来ないけども、うちが確実に強みを出せるところでは作りこんだクルマを2%のお客様に提供するって会社なんですよね」
思わずこの発言に食いついて、先に引用したフェルディナント・ヤマグチさんのコラムの話をしたわけです。いやぁ、今から思えば技術だとかそういうのが好きそうな客と見抜いて恐らく食いつきそうだという釣り針をガッツリ仕掛けて、ヒットォ!! でありますなあ。
さらに言うと上手い売り方だなぁと感心しますね。この話を振るってことは暗に「貴方はその限られた(プレミアムな)2%のひとりですよね?」って問いかけているわけですから。うん、商売上手ですわ。
not only B-Segment car but also "premium" car
必ずしもマツダという会社の全てがそうなっているとは言い切るつもりは無いけども、結局マツダという会社はごくごく限られた顧客に対して「マツダならではのプレミアム」を提供しているんですよね。極端な話ボリュームゾーンのBセグメントでもそれは変わらないわけです。本来的な意味の「プレミアムカー*2」では無いけども「プレミアムなクルマ」ではあるんですよね。
他にも実は色々と話をしてて、マツダの泣き所でスライドドアのミニバン*3になかなか資源を投入しにくいなんて話もしたり、生産技術的に込み入った話(フェルディナント・ヤマグチさんのコラムにあった混流生産の話なんかね)をしたりしたわけですが、いや本当に至福の時間でありました。
ある意味この時点で勝負はついていたんでしょう。
もう一つの――そして最終的に決断するに至った――決定打。それは自分に「fun」であり「interesting」でありそして「joy」を与えるという「プレミアム」。そこでした。
かくして「プレミアムなクルマ」であるところのデミオが間もなく手元に届くわけでありますが……
折角ここまで自動車に関する記事を書いたことですし、定期的に経過報告をしていきたいと思います。さしあたっては納車直後のインプレッションからでしょうかね。
それでは、納車の日までしばしのお別れでございます。
*1:この時乗ったのは13Sというミドルグレードのモデル。過去に試乗したのは13S Lパッケージというガソリン車の最上級のモデル。内装や速度計(ヘッドアップ・ディスプレイみたいな作りなのである)などに違いこそあれ、クルマとしてはほぼ同じである
*2:本質的には「高級車」という意味であって、通常トヨタでいえばレクサスブランドだったりする。マツダの場合は…… 価格帯的には無いという位置付けになるのだろうか? いやいやアテンザがあるから(震え声)。ま、一概には言い切れない概念ではあります
*3:とりもなおさず国内向けモデルの開発がどうしても厳しい――全世界で2%にアプローチをするというスタイルの代償ですな