伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

全線開通版・線路のない時刻表(宮脇俊三/講談社文庫)

鉄道趣味というものはとてつもなく幅広く、いわゆる「鉄道マニア」というクラスタに所属していても、全容を把握するのは困難であったりする。その鉄道趣味の中でも比較的一般人にわかりやすく、その魅力を紀行文に仕上げていたのが宮脇俊三さんだ。本書はそんな著者の手による80年代国鉄末期の「未成線」探訪記とその後第三セクターとして開業した路線のルポルタージュだ。

三陸鉄道のくだりは本書に書かれた当時は大変に快調だったのだが、その後を知っている身にはなんともやるせないし、第三セクターとして開業した各社の苦境を知っていると、この本が出た当時の明るさが若干皮肉に感じなくもない(それでも北越急行線や智頭急行線の好成績と努力や、三陸鉄道の苦闘は特筆すべきであるとおもうが)。

それでも、もともと未成線だった当時の遣る瀬無さや口惜しさに比べれば、まだマシなのだろうななどと思ってしまう。

鉄道を趣味とすることのできる国に居るという幸せと、それと同時に鉄道というものが地域社会にとってどれほど大事なものかということを知る為に、一度は読んで欲しい一冊だ。

時刻表2万キロ(宮脇俊三/角川文庫)

昔々、日本国有鉄道ーー通称国鉄という公共企業体があった。今のJR各社の前身なわけだが、今では考えられないようなローカル線を(主に政治的な要素をはらんで)多数抱えて、経営が傾き今に至るわけだ(このあたり諸説あるがとりあえずはこんな理解で十分だとは思う)。正直、こんな前置きが一般的に必要な時代にの流れに無常さを感じざるを得ないし、逆に歴史的パースペクティブで考えるならばつい最近の出来事に感じてしまうというギャップが何とも面白いところではあるが。

閑話休題、本書の話だ。

まずは出てくる線区が軒並み「今は亡き」なところに感涙ひとしお。特に北海道のローカル線なんか、殆ど廃線の憂き目にあってるしなあ。夕張や筑豊の炭鉱もこれまた今じゃ歴史の領域だ。

夕張のその後は本作よりもさらに苦難の道のりであることを知っているとどうしたって暗澹たる気持ちになってしまうし、そもそも夜行列車がこんなにバカスカ走っていたことが今じゃ信じられないレベルだったりする。

ぼくにとって身近な路線でいえば、鶴見線こそ支線群も含めて今でも健在(でも構内引込線輸送は減ったみたい)だけども、寒川線の西寒川支線は残念ながら廃線となって、今は遊歩道になってしまっている。

ただ、それでもちょっとお偉いサン(何せ中央公論社(こちらもある意味「今は亡き、だ」)の役員だ)の汽車旅趣味をのぞき見るという点、昭和の国鉄斜陽期の少し前を知るという意味ではものすごく意義深い本だ。

シベリア鉄道9400キロ(宮脇俊三/角川文庫)

宮脇さんの鉄道紀行は読むと妙に腹がへる。

以前に読んだインド鉄道紀行(角川文庫)も食い物の話があっさりとしか書いてないのに、出てくるカレーといいポタージュスープといい妙に旨そうに見えてくるのが不思議である。本書に出てくる食べ物も実際に食べたらおそらくそれほど美味しくないのだろうけども(ライ麦パンにソ連時代の食べ物っすよ)不思議と魅力的に見えてくる。鉄道紀行の魅力に加えて、食べ物に対する不思議な魅力が宮脇紀行文の魔力なのかもしれない。

本書で描かれているシベリア鉄道はまだソ連があったころ(昭和57年)でこれから徐々に斜陽に向かっていく時代だから、なんとなく想像の中のソ連とマッチする所が多くて中々面白い。「鉄」じゃなくてもソ連・ロシア好きクラスタにもオススメできる一冊だ。