伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

今日のはてブ(2017/06/14)

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5月の末に半ばノルマ消化気味にやって以来の「今日のはてブ」です。ここのところ色々と状況が改善してきて、以前よりはニュースのチェックに時間を割けるようになった関係もあり、今月はもう少し頻繁に――最低でも週に1本は更新したいところです。
まぁ、あくまでも「願望」に過ぎない話ではありますが。

さて、6月一発目のネタはこちらになります。

富士フイルムからしてみれば奇貨となる、富士ゼロックス不正経理問題

世の中、パッと見た目にはアンラッキーな出来事だったとしても、よくよく見てみるとラッキーな出来事というのが往々にしてあるわけでありまして…… この度発覚した富士ゼロックスの海外子会社による不正経理*1もそれなのかな、と思う次第です。


今回まずもって抑えておかなければならないのは、富士ゼロックスという会社の特殊性です。言ってみれば本体からの独立性というか独自性というか、あまり風下と思ってなかったきらいがあるということになります。

そもそも富士ゼロックスは、1960年代*2ゼロックスの英国法人ランク・ゼロックスと合弁で設立したのが生い立ちです。当然合弁ということもあり、出資比率はゼロックス側と半々でした。
その後21世紀に入ってすぐに当時左前だったゼロックス本体*3から持ち株の買取を打診されて出資比率が75%となり、連結子会社となります。さらに「富士写真フイルム」が「富士フイルムホールディングス」となったタイミングで、本流事業を執り行う子会社の「富士フイルム」と同じく事業子会社となったという歴史的背景があったということですね。また、小林陽太郎*4のような著名な人士を輩出していたという自負も富士ゼロックス側にあったわけです。
さらに、富士フイルムホールディングスのなかで富士ゼロックス(ドキュメントソリューション)が占める割合は5割近くあり、自負心も強ければ源流の「写真フイルム」の色合いが強いホールディングスに対する反発心といったようなものがあったのでは無いかと推察されます。

その上で以下のはてブをご覧頂ければ、と。

不適切会計の富士ゼロックス、“富士フイルムカラー”で出直し

「雨降って、地固まる」というよりも、富士フイルムとしては事業再編の良い口実になったくらいに思っていそうですね。

2017/06/14 13:36


今回、富士ゼロックス側が大いにやらかしたわけですが、各種報道を見る限りはホールディングスとしてはそこまで富士ゼロックスに対しては細かくタッチしていなかったようであります。ただ、これは冒頭述べたような経緯もあって、資本的にはともかく事業としては極めて独立性が高い社風というものもあったのではないかと推察されるわけです。実際、今回の事件において公表された今後の対応を見ると、その独立性がよくわかります。

4.今後の対応について
 (1)当社の富士ゼロックスに対するガバナンス強化と、富士ゼロックスの業務管理
  プロセスの強化
  ①組織体制の見直し
   富士ゼロックスのコーポレート機能の一部を当社に統合することにより
   業務管理プロセスを強化する。
  ②当社から富士ゼロックスへの経営人材の派遣
   1) 取締役及び経営管理実務責任者の派遣
   2) グループ内人材交流の一層の拡大
  ③グループ内部統制の強化
   1)関係会社の経営管理ガイドライン拡充
   2)グループ内報告体制の再構築と強化
     富士ゼロックスから当社への報告体制の再構築と強化
     富士ゼロックス(関係会社含む)内の報告体制の再構築と強化
     意思決定に関する会議体再構築と強化
   3)コンプライアンス教育の強化・再徹底と人材育成強化

(差替)「第三者委員会調査報告書の受領及び今後の対応に関するお知らせ」のファイル差替について

4.(1)①の「組織体制の見直し」にある「富士ゼロックスのコーポレート機能の一部を当社に統合する」をみて思わず驚愕してしまいます。まだやってなかったんかい、と。
通常、こういった持ち株会社の下に事業会社がぶら下がっているような形態の場合、多くは共通的な部門――特に財務や経理、総務、人事といった部門をシェアードサービス化させることでコストダウンを図ります。事業再編含みの持ち株会社化のケースは共通化させる領域は異なれど大概やってます。
とりわけ財務・経理部門はシェアードさせることが比較的容易*5で、シェアードされていることが多いです。それが、まだ現段階ではそれほど為されてなかったということが浮き彫りになっています。

また、4.(1)②の「当社から富士ゼロックスへの経営人材の派遣」の内容も中々破壊力が高いですね。ホールディングスとして統合されている以上、事業会社同士で何かしらのシナジーを発揮していく必要があるわけですが、これを見る限りは「富士フイルムホールディングス - 富士フイルム」と「富士ゼロックス」が全く強調して動ける体制では無かった可能性が高いわけです。実際、今回更迭される山本忠人会長にしても栗原博社長にしても富士ゼロックス出身のいわば生え抜き経営者です。通常、資本関係がここまである場合、本流事業側から人が送られてくるのが一般的なのですが、冒頭書いた通り人的交流という点においても極めて独立性が高かったということが見て取れます。

独立性の高さというのは、良い面悪い面あって一概に否定出来ないわけですが、今回ガバナンスの欠如という形で思いっきり悪い方向に突き抜けた以上「富士フイルムホールディングス」からの強い統制を受ける必要があると思われます。


他方、富士フイルムホールディングスから見た話です。売上や利益という観点では上述した通りかなりのボリュームを稼ぎ出していた富士ゼロックスですが、上述したようにうまくガバナンスを機能させられないという問題があったわけです。これもホールディングスに好意的な見方をすれば今回のような事件*6を起こさないためにやるべきという議論があるわけですが、下衆の勘繰りをするならば資本を75%も出しているにも関わらず人事的な植民地化が出来ていないという思いがあったと推察されます。本流事業の富士フイルム自体、写真フィルム斜陽の時代に新規事業の構築に比較的成功している部類とは言え、事業全体の半数近くを占める富士ゼロックスの事業に対してポストを確保出来ないということは、あまり愉快な話ではないでしょう。とはいえ、冒頭述べたような過去の経緯や現状の事業的貢献もあってか中々手出しが出来なかったわけです。

今回の事件を受けて上に引用したような対応を取るわけですが、主に共通的な部門や場合によっては事業部門に対して相当大鉈を振るうことが出来ます。そりゃあ不正経理となれば大義名分は立つわけですから。当然、富士ゼロックス生え抜きが占めていたポストも相当数富士フイルム側が奪えるでしょう。その過程で似たような事業やシナジーが発揮出来るような事業なんかは富士フイルムとくっつけるというような動きも出ることになります。それが吉と出るか凶と出るかはわかりませんが。

タイトルにも書きましたけど、出来事自体は富士フイルムホールディングスとしてはアンラッキーだったでしょうし忸怩たるものがあるとは思います。ただ、ある種、目の上のたんこぶだった富士ゼロックスを、今般きっちり支配出来るようになると考えればある種奇貨だったのかもしれないと思うわけです。


あとは全くの余談というかまさにチラシの裏にでも書いておけ*7な話です。東芝の件もそうですし今回の富士フイルムホールディングスの件もそうですけど、持ち株会社の下に事業子会社をぶら下げるやり方はよほどガバナンスをきっちり効かせないと危ないですわな。特に財務や経理部門に関しては、持ち株会社側でも事業会社側でも一切操作出来ないようにしないとこういった話が表に出てこなくなるわけで。
事業に関しても、東芝の場合「(相対的に)持ち株会社的ポジションからプレッシャーをかけたら不正経理でPC事業やらが吹っ飛んでました」からの「(相対的に)持ち株会社的ポジションからガバナンスをかけてなかったら原発事業が吹っ飛びました」というある種の往復ビンタになっていて、もはやネタの領域*8だし、今回の富士フイルムホールディングスの件にしたって、単に資本を持っているだけの持ち株会社状態だったわけですよね。

無論経営的な機動性という観点で、持ち株会社という仕組みを否定することはもはや不可能なのは事実だけども、そのためにガバナンスが不適切で事業が吹っ飛びましたってことをあちらこちらで起こすようでは何の意味もないわけで。

ただ規制をかけろと言ったところで現実的ではない以上、企業サイドでうまく考えないと変な話*9になりかねないのが非常に恐ろしいところであります。

*1:不適切な経理処理というのは明らかにお茶を濁し過ぎな表現だと思う

*2:現在の「富士フイルムホールディングス」がまだ「富士『写真』フイルム」として写真フィルム事業を中心に展開していた時代

*3:その頃には英国法人が米国本社に吸収合併されていた

*4:富士ゼロックス会長。富士写真フィルム出身だが、富士ゼロックスの名物経営者として有名だった

*5:そもそも財務や経理の業務が会社によって大きく異なるためシェアード出来ないということは、そのやり方に何かしらの問題がある可能性が高い

*6:あるいは東芝の米国原発事業のようなこと

*7:まぁ、ブログなんてある種チラシの裏みたいなものだけど

*8:そういえば、どこから某商社系のシンクタンクだったかが出してるニュースレターで「ガバナンスの仕組みという点では東芝は明らかに先端的な取り組みを行っていた」とか書いていたけど、ある種お笑い草ですよね。そういえば、このシンクタンクの母体となる商社も昔トレード関係で大問題が起きて結構な人数クビになったという話がありましたなぁ……

*9:そういえば昔「特定産業振興臨時措置法案」なんてものもありましたな。あれはそういえば岸信介からの流れをくむ「産業派」「統制派」の大物官僚佐橋滋企業局長(当時)がブチ上げたんでしたっけ