伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

東日本大震災と地域産業復興II(関満博/新評論)


いやはや、メモも取らず一気に読んでしまった。これはスゴイ本だ。先に紹介した同タイトル書の続編。2011年10月1日から2012年8月31日までの中小企業の復興について記述されている。内容的には平易だけどもやはり専門書、大部ではある。でも一度は手に取ってみてほしい。また、前作同様経済系学部の大学生諸君は是非読み通してみて欲しい。山形浩生さん(@hiyori13)が非常にコンパクトに纏まった書評を書いているのでそちらも参照
震災から半年経ってからということもあり、東北各地の企業、その復興のケーススタディが中心となる。そういった意味で概論を知りたい人はまず前作を読んでからの方がとっつきやすいはずだ。
本書そのものは先ほども触れた通り個別のケーススタディが中心となっている(とはいえ東北太平洋側の産業についてかなり深く知ることができるのだが)。その中で政府や県の特別融資が非常に大きな役割を果たしていることが印象的だ。実際問題として「現場」側としては、仕事を続けたいのだ。アジアシフトの話だとか一次産業に対する都市民的「偏見」から、東北への投資ということに二の足を踏む御仁もいるかもしれないが、さにあらず。詳しくは本書を読んで驚きたまえという所だが、東北太平洋沿岸の水産業、水産加工業がこれだけ付加価値の高いことをやっている(またはやれる余地がある)ことを知れたのは私にとって大きな収穫だった。
私に限らず、産業というとどうしても二次産業を主体に捉えてしまう節があって、一次産業や三次産業に対する視点が欠けることが多い中、これだけ複層的な資料を読むことはそういった欠けた部分を補ってくれることだろう。
ちなみに。本書の中で関東自動車工業セントラル自動車の事例がちょこっと触れられていたのだが、両社がトヨタを巻き込んで先日「トヨタ自動車東日本」として発足したことを付け加えておこう。何故この時期に(本来アジアシフトが叫ばれている自動車産業が)「東北シフト」のような動きをしているか、学生さんのみならず我々社会人も考えてみるべきじゃなかろうかな。前作同様オススメだ。

東日本大震災と地域産業復興I(関満博/新評論)


東日本大震災後2011年10月1日までの地域産業について「現場」での動きを詳述した本。ぶっちゃけた話、かなりの専門書であることは間違い無くて、あまり一般向けではないのだがそれでもここで紹介して色んな人に読んでもらいたい本だ。特に学生さん、それも文系の経済系学部の大学生にはぜひ一度読んでもらいたい。関先生の本は学術書ではあるけど非常に読みやすいし、読む価値がある領域に触れている。それにこの手の専門書を読み通すということは自信にもつながると思う。
内容としてはまさにタイトルの通りで東日本大震災で影響を受けた中小企業を中心とした地域産業がどのような活動をしているかを纏めた内容だ。お恥ずかしい話、東北地方に関する知識が乏しい私には目から鱗がボロボロ落ちる内容だ。特に歴史的観点で言えば、東北地方=田舎論というのが、高度経済成長期の果実を受け取れなかったという「結果論」によるもので、現在ではむしろ北上川流域の産業集積が目覚ましいというあたりは一読して知っておくべきだろう。また、沿岸部の水産業コンプレックスという産業構造はある種コンビナートという日本っぽい産業集積と類似しているところも、押さえておきたいところ。本書や本書の参考文献を中心に読み進めれば、非常に役立つものになる筈だ。
より「現在」に近い復興の話は続編にあるということなので、そちらも別の機会にご紹介しよう。
最後に一つだけ。「日本の中小企業の復元力は強く、一週間ほどで立ち直っていくようである。」 日本の中小企業は、凄いものなんだ。是非学生さんは(そして普通のサラリーマンでも)本書を読んでそういうことを知って欲しい。おすすめの一冊だ。

「エコタウン」が地域ブランドになる時代(関満博編/新評論)

「人の姿が見える地域」による循環型・持続可能型まちづくりについての報告と提言をまとめた一冊。
ぼく自身、「エコ」という言葉が大嫌いで物凄く胡散臭く考えている一人である。エコをうたい文句にしたペットボトル回収だとか発泡スチロールトレー回収だとか正直勘弁してほしいと思っている。こんなことを言うと、このご時世市民権をはく奪されかねない勢いでアレなのだが、もちろん理由はある。どうやったってコストが嵩んで結局弱い所ーー原料屋や生産会社にしわ寄せがいくことになるからだ。そして、そこに働く労働者とその地域の周辺産業の経済規模をシュリンクさせていく。喜ぶのはせいぜいそのことを手柄顔にする小売や自己満足に浸れる消費者だけだ。
とまあ、正直なところ「関さんともあろう人がなんでこんなうさんくさい領域に」と思いつつ読んだわけなのだが、やっぱり相変わらずこの領域はうさんくさいという思いを否定するには至っていない。例えば山形県長井市の生ごみから堆肥のサイクルは、堆肥そのものの販売があんまり考慮されておらず結果として有効な取り組みが活かしきれてないということになっている。加えて施設の老朽化の問題もおきているそうだ。これなんかは典型的な「エコビジネス」の落とし穴で「生ごみを堆肥にしましょう」という市民的意識の高まりが、別のところで社会に問題をつくっていることになっているんじゃないだろうか。
また、本書で取り上げられている事例自体「市民の意識を高める」系の案件が多いのが問題。最終的に利益が出て関係者みんながハッピーになる案件じゃないのだ。ぼくが「エコ」という言葉を嫌うのはここにある。結局一部の人間のしょっぱい利益や自己満足で終わって、外部不経済を引き起こすケースが後を絶たないのだ。
とはいえ、注目すべきケースが無いわけではない。北九州市や川崎市、岐阜県の「エコタウン事業」(一発屋政策官庁でおなじみ経済産業省の事業だ)なんかは「産業」として成立していて、これなんかは見るべき価値があると思う。なんで「産業」として成立していることに価値があるか? それは、そこに利益を生み出し雇用を創出して結果地域全体を富ましていくことにつながるからだ。そしてこれはぼくが「エコ」を嫌う理由ともつながっていく。「エコビジネス」や「エコタウン」なんてものには微塵も価値は無いだろう。ただし、「産業」につながるエコ、そこに誘導していく地域産業政策は大歓迎だ。 そしてそれに対する多少の労力の増加だって許容範囲だ。
残念ながら本書に出てきた事例で評価に値するのは先ほどの三市のケース(あとは直島……というか三菱マテリアルだな)くらいで、ほかはあまり見るべきものは無いと思われる。
ただ、日本の「エコタウン」の程度を知るという意味では意義深い報告ではあると思う。ぼくらが今後評価すべき「エコ」を創出していくために。

「B級グルメ」の地域ブランド戦略(関満博・古川一郎編/新評論)

B-1グランプリでも脚光を浴びている「B級グルメ」を比較的小規模な地域産業として分析した一冊。本書が刊行されたのが2008年1月と一般的にはちょっと前だったこともあり、ここで取り上げられているものは全般的にある程度定着したものが中心になる。その為、現在進行形のB級グルメは取り上げられていない。

ネガティブな話から入って恐縮だが、そもそもB級グルメには色々問題がある。元来、地元民の日常食という側面が強いものは別地域で提供が難しいなどだ。例えば岡山県は日生の「カキオコ」なんかが代表例だ。同様の問題はホルモンなどいわゆるバラエティミートを使ったメニューなどにも発生しうる。食中毒でも起こそうものなら、ブランド以前の問題になってしまう。

また「新しい」B級グルメが雨後の筍のように勃興しているのも色々と突っ込みたい所がある。正直、「なぜその地域でその食べ物が?」という疑問符がついてまわるシロモノも多いのだ

本書がそういったB級グルメの負の側面に焦点をあてられているかというと、極めて限られた範囲にとどまっている。正直に言えば、「戦略」を名乗るには若干不満が残る内容である、と言わざるを得ない。

さらに言えば、B級グルメの成功例として列挙されている対象も若干疑問符がつく。川崎の焼肉街は「集積」という観点では重要なのかもしれないが(それでも本文中に触れられている通り、軒を連ねるという具合では無いそうな)それであれば、香川県のさぬきうどんの事例の方が成功例としてはわかりやすいし、ブランド戦略という観点では明確になったのではないかと愚考する次第。

ただ、「B級グルメ」の先行事例としては大変読むべき価値があると思う。特に盛岡のジャジャ麺については必読だ。B級グルメを展開する上での問題点について、比較的真摯に記述しており、これからB級グルメで町おこしを…と考える向きにも勉強になる記述だ。先に述べた「新しい」B級グルメに対する警鐘として、一読に値するものだと言えよう。

地域産業政策というお堅い側面ではなく勝手連的に動いていきたい、そんな人たちに本書を参考に新たな取り組みを進めてほしい、そう思える一冊だ。