伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

決戦下のユートピア(荒俣宏/文春文庫)


博学で知られる著者による第二次大戦下の日本におけるひとびとの暮らしを面白おかしく綴った一冊。
ぼく自身ミリヲタとして非常にアウトサイダーなヤツでありまして、兵器の話だとか戦術の話よりも、末端の飯炊き兵のはなしだとか輜重輸卒のはなしが大好きなわけであります。自然、たいがいのミリヲタとの交わりは疎遠になって、流通関係(輜重輸卒のはなしから、小行李・大行李、そして兵站、ロジスティクスへと発展していく)だとか著しきは米軍のマニュアル(これは神保町に専門の古本屋がある)なんぞを好んで買っては読みふけるという、何ともおぞましいドロップアウトミリヲタが誕生したわけである次第。
こんなぼく自身のヨタ話はどうでもいいのだが、この本もそんなアウトサイダーでドロップアウトしたミリヲタのぼくにとってはとっても楽しい本だ。何しろ「ユートピア」である。そもそも「ユートピア」という言葉がもとの本からして反語的意味を持つからして、どれほどのエピソードを読ませてくれるのかとワクワクしてしまう。そして、実際内容はびっくりするほど「ユートピア」であった。何しろ、のっけからロクデモナイ母親の話から始まるのである。どれほどロクデモナイ母親だったかは、是非手に取って確かめてみて欲しいが、読めば読むほど「こ れ は ひ ど い」と思わせる話で満載だ。
とはいえ、面白おかしいだけの本ではない。冒頭の一節は昨今の生真面目なのかバカ正直なのかよくわからない、青年連(もっとも本当に青年と云える年なのかは知らんが)にも是非読ませてあげたいことを綴っている。最後にこれを引用して結論に代えさせてもらおう。
「まあ、相撲でいうなら、腰を引いて左半身、といったところだろうか。ものごとはすべからく、半身がよい。ゆめゆめ、がっぷり四つ、になど組んではならない――、というのが、歴史を相手にするときの、自分流の心構えである」

ニコンF3最強伝説(マニュアルカメラ編集部/枻文庫)


ニコンF3に焦点をあてたムック本的な一冊。この手の本は割高に見えて意外に知らなかった事実がサラッと書いてあったりしてなかなか侮れない。
例えば、ニコン=プレス向けという印象があるけども、モータードライブを使った高速連写に関していえばキヤノンニューF-1に後れを取ること10年、F3Hでようやく実現したとか。ニコンの持つイメージと実際とが異なっていたという事実は、案外気づかないものでこの手のムック的なものとしては結構辛口の書き方だし非常に勉強になることしきりだ。
また、本文中でスタジオでのポートレイトやブツ撮りをメインにされているプロの機材が載っていてかなり参考になる。85mmF2、50mmF1.4、105mmF2.5の組み合わせという、どうしても長物(300mmとか400mmとかね)に目が行ってしまう素人には、ハッとさせるものだ。考えてみればブツ撮りで長いズームは不要だし明るいレンズの方が便はいいわけで、トーシロカメラマンもそこらへんを考えて機材は買わないといけないなあ、などと自分を棚に上げて思うわけだ。
また自分を棚に上げて語ってしまうのだが、写真を撮るのであればこういう「雑学」的なものを読んでみるとまた世界が広がるのではないか、などとエラソーに語ってしまうトーシロのアテクシなのだった。

鉄道地図は謎だらけ(所澤秀樹/光文社新書)


鉄道地図にまつわる雑学を集めた本。特に路線名称だとか会社境界などの細々した話は興味深かった。本書のような鉄道雑学ものは、それ単体では鉄道マニアの知識の羅列になりがち(本書も残念ながらそのそしりを免れない)ではあるが、そういった細々した知識があると別のところで思わずニヤリという経験ができることが、ままある。そういう意味でも知識ってぇのは大事なのだ。
これを読んでいてふと銀河鉄道999を思い出した。銀河鉄道999に出てくる銀河鉄道株式会社自体が国鉄を元ネタに引いている為、××管理局とか人類駅(民衆駅を元ネタにしている。停車する惑星側が出資して作った駅との由)といった用語が出てきて、思わずニヤリとさせるのだ。
そうそう。管理局といえばどこぞの圧政的な魔法による軍事組織というのが最近の通り相場になっているようだが、国鉄の「管理局」という用語を知っていると、色々と不穏な妄想が脳裏をよぎって思わず愉快になってしまう。
かように、いささか鉄道マニア向けの知識が詰まっているような本であっても、こういった一般向け新書で上梓されて知識として流通されることは好ましいことに違いない。好ましからざるものどもを嗤うためにも。

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか(町山智浩・文春文庫)


書評とかエラソーにやっててこんなことをいうのもあれだけども、いつもぼく自身は自分の無知と浅学さにビクビクしながら生きている(それ故に無知を無知とも思わない連中を心の底から軽蔑してるのだが、これはまた別の話)。いや、ホント実際の所、マジで物を知らんよなぁ……と自分の呆れることっていっぱいあるのよ。アメリカでの三面記事的出来事をコラムに仕立て、それを集めた本書を読んだときもそうだった。
アメリカ合衆国という国があること、そこが超大国で軍事的プレゼンスがどうこう……なんて話は幾らでも(まあ、それなりにそういうオベンキョウはしてきたので)出てくる。でも本書に描かれているような、下駄ばきのアメリカなんて微塵も知らない。また、芸能関係に微塵も興味が無くて、ろくすっぽテレビを見ないぼくとしては所謂ゴシップ関係の話がむしろ新鮮に見えてくる。
とまあ、こんな愉快で脂っこくてアメリカ人が大好きなステーキ(もちろんポテトフライはたっぷりと)のような本を糞まじめに語るのはこれくらいにしておこう。印象に残ったネタを幾つかピックアップしてみよう。フォレスト・カーターの「リトル・トゥリー」がインチキ本(なんとよりにもよって著者はKKKのメンバー!)という話はおもわずうへぇ、とのけぞってしまったことよ。なんでまたそんな御仁がそんな本をとか思ってしまう。これを書くためにamazonのレビューを見たら流石にかなり有名な話らしい。いやはやびっくりだ。「バカ探し」のテレビ番組の話は初出が2007年3月なんだけど、同じ時期にヘキサゴンとかやってて、こういうネタは日米あんまり変わらないんだなぁと感心することしきりだ。本書ではアメリカの小学校5年生レベルの問題を出すクイズがあるなんて話が出てたけど、日本での状況はご存じのとおり。ヘンテコな漢字をタトゥーにする外国人の話を読んで、何故かドナルド・キーンさんのことを思い出してしまった。あんなインテリですら、雅号が「鬼怒鳴門」だったりネイティブの日本人からすると、ちょっとまてやと思ってしまうわけだしね(もっとも、あちらさんも「All your base are belong to us.」に同じ感想を持っているとは思うが)。
他にもとにかく仰天したり爆笑したりととっても忙しい本。ただ、ちょこっとだけ難癖をつけるなら、とにかく全力投球のようなネタばっかりで読んでる途中でお腹いっぱいになってしまうところ。週刊現代の連載コラムが中心(なんで講談社の雑誌連載が文春文庫になっているかは、本書のあとがきを読もう!)なのだが、週刊誌の連載コラムとは思えないほど、脂っこい話が満載。面白いコラムが満載なのは、それはそれで大歓迎なのだが、アナタ、ピータールガーのステーキを一か月喰い続けろなんて、ちょいとキツいでしょ(いや、寺門「ネイチャー」ジモンだったら大歓迎かもな)。そこらへんの問題は、確かにある。それでも、下駄ばきのアメリカンカルチャーを知りたいなら、是非一読してみてほしい。