伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

すべての経済はバブルに通じる(小幡績/光文社新書)


個人投資家としても有名な慶應大学准教授である著者による、近年発生している「バブル」についてそのメカニズムを分析した一冊。実務者寄りというよりかはかなり理論的な本で、ちょっと内容は難しめだ。それでも新書として出ている本だし、それほど人を選ぶレベルではない。
「資本(投資家)と頭脳(運用者)の分離」という着目点は結構目からウロコで、確かに殆どの大口投資家がファンドに出資することで運用を行っている現状からすると、極めて重要な示唆だ。また、そこからバブルが発生するメカニズム(運用者は資金を引き上げられたくないから、リスキーな相場に突っ込まざるを得ない、よってバブルが加速する)もなかなか興味深い。それどころか、この枠組み自体がそれ自体一つのバブルを形成している(著者はこれを「キャンサーキャピタリズム」と呼んでいる)というあたりは、納得せざるを得ない内容だ。
本書では、このキャンサーキャピタリズムバブルも様々な要因によって(その内容は本書を読んで確かめてみて)弾け、この病的な状態を脱すると論じているが、ぼくはそこまで楽観的にはなれない。歴史は繰り返すというけども、恐らく手を替え品を替え相当長い期間同じようなことをやって、実体経済を振り回すことになるんだろう。なぜなら、本書でいう「資本と頭脳の分離」の枠組みが変わらない限り、頭脳すなわち運用者はちょっとでも高いリターンを求めてリスクを取りに行き、そしてバブルが形成されていくから。そしてこの枠組みはそう簡単に崩れることはないだろう。現実的に投資家が抱える資本が偏在する(これは金持ち批判じゃなくて、年金基金なんかも含めた話だ)以上、その資本を自分で運用することは現実的には難しいし、メリットも薄いから。より効率的にってことになると、どうしたって「プロ」をチョイスして成績を追っかける方がラクだからだ。
とまあ、ちょっと暗い話になってしまったけども、バブルに釈然としない向きには、理論を知ることで多少なりとも納得して、バブルに振り回されない為にはどうすべきか知って、より面白おかしく生きていこうじゃないか。ぼくはそう思う。

鉄道地図は謎だらけ(所澤秀樹/光文社新書)


鉄道地図にまつわる雑学を集めた本。特に路線名称だとか会社境界などの細々した話は興味深かった。本書のような鉄道雑学ものは、それ単体では鉄道マニアの知識の羅列になりがち(本書も残念ながらそのそしりを免れない)ではあるが、そういった細々した知識があると別のところで思わずニヤリという経験ができることが、ままある。そういう意味でも知識ってぇのは大事なのだ。
これを読んでいてふと銀河鉄道999を思い出した。銀河鉄道999に出てくる銀河鉄道株式会社自体が国鉄を元ネタに引いている為、××管理局とか人類駅(民衆駅を元ネタにしている。停車する惑星側が出資して作った駅との由)といった用語が出てきて、思わずニヤリとさせるのだ。
そうそう。管理局といえばどこぞの圧政的な魔法による軍事組織というのが最近の通り相場になっているようだが、国鉄の「管理局」という用語を知っていると、色々と不穏な妄想が脳裏をよぎって思わず愉快になってしまう。
かように、いささか鉄道マニア向けの知識が詰まっているような本であっても、こういった一般向け新書で上梓されて知識として流通されることは好ましいことに違いない。好ましからざるものどもを嗤うためにも。

「事務ミス」をナメるな!(中田亨/光文社新書)

産業技術総合研究所でヒューマンエラー防止の研究を行っている著者による、事務ミスの分析と対策を述べた一冊。
一昔前、製造業というのは3K(キツイ・キタナイ・キケン)職場の典型と嫌われた時代があった。確かにそういったころの製造業は言われても仕方がない有様だったのだ。ところが、今では製造業の方がよっぽど安全対策やらがしっかり施されて、デスクワーク主体の会社の方がよっぽど3Kだったりするという笑えない現実があったりするのだ。実際、製造現場で行われている「ミス対策」と比較してデスクワーク界隈のミス対策というのはお寒い限りだ。そういった現実もあり本書を手にとってみたのだが……
一読した感想としては「ズレている」と言わざるを得ない。もともと、現場系のヒューマンエラー対策をやられてきた方なのだろうか。どうにも事務仕事に対する観点がズレているのだ。例えば帳票についての問題点など、納得できる部分も多少あるのだが、一方で事務作業の実態が見えていない主張も多い。実際、現場仕事関係も「フローチャート」を多用しているというのに「すべてを表であらわせ!」なんて、非現実的もいいところだろう。ここらへん、正直薄っぺらくてがっかりした。
また、やたらと古典からの引用が多いのが鼻につく。どうも「知ったかぶり」をしたい三等管理職が好きそうな構成なのもマイナス。いかにも、部下に「知ったかぶり」をしたいエラいさんが好きそうなことを大量に入れていて中身が薄っぺらというのは、正直サイテーと言わざるを得ない。
一方でとっつきやすいシロモノに仕上げたという点は評価できる。いかんせん、こういった「ミス対策」というのをデスクワーカーに認知させるにはこれくらいわかりやすい必要があるだろう。デスクワーカーというのは(自戒を込めて言うならば)本当にバカでデタラメな存在なのだ。
ちょっとこの界隈について、知ったかぶりをしたいなら読んでもいいかもしれない。ただ、正直に言えば真面目にヒューマンエラーについての専門書を紐解いた方がいいようにも思う。

三面記事で読むイタリア(内田洋子・シルヴィオ=ピエールサンティ/光文社新書)


三面記事というものは、洋の東西を問わず雑多なものでそれでいてお国柄を知るには一番便利な代物であって、イタリアの三面記事を集めたこの本もまさにそんなイタリアの雑多なよしなしごとを知るいい本だ。
時期的には2002年の1月から7月で、10年近く前の話だから今となってはちょっと古い話も数多い。サッカーのコッリーナもバッジョも今となっては引退済だ。ベルルスコーニも失脚……と思いきや、総選挙でまさかの復活。本書を読んでもらえばわかるけど、身を以てメディアにネタを提供するあたり、ナベツネを彷彿とさせる姿、メディア王の面目躍如というところですな。
それでもイタリア議会の体たらくは何となく「らしさ」を感じる一方で、フェラーリの人材への投資にも「らしさ」を感じる。イタリアという国の雑多さと複雑さを感じるには最適の一冊だ。