伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

デフレの正体(藻谷浩介/角川oneテーマ21)


日本政策投資銀行に勤務し地域振興の各分野に活躍する傍ら、平成合併前の約3200市町村の99.9%、海外59ヶ国を訪問した経験をもつ著者による、景気不振についてかなり大胆に論じた一冊。背表紙の惹句に「『景気さえ良くなれば大丈夫』という妄想が日本をダメにした!」とかなり挑発的なことを書いているが、本書の内容はもっと過激だ。
過激と書いたけども、その内容は極めて良質で実体と合致した内容だ。それに根拠となるサーベイの広い方も見事。関満博の調査が現場に密着したものだとするならば、こちらは現場感覚とサーベイの活用をバランスよくやっている感じだ。
内容について簡単に言ってしまえば、今の景気不振は国際競争力でも地域格差でもなく、単に生産年齢人口の減少が原因だというもの。厳密に言うならば、団塊世代の定年退職に伴って、生産年齢人口が急減していることが原因だと述べている。そしてデフレは単なる結果に過ぎないのだ。一見すると、マクロ経済学のモデルとはかけ離れたように見えるが、実際の統計と比較すると著者の意見はそれほど暴論ではない。それどころか、今の若い連中の苦境とも一致するではないか!
正直、これは一回目を通してみて欲しい。その上で、今何をしなければならないのか(ならなかったのか)判断すべきだと思う。今、インフレ目標と称して色々とやっているようだが、これが本当に有効なのか? その上で今の政府の中でまともに現状への対策を理解しているのか誰なのか? 判断する材料としてはうってつけだ。

歴代首相の経済政策全データ増補版(草野厚/角川oneテーマ21)


慶應義塾大学総合政策学部で政治学、日本外交論、政策過程論を専門とする著者による、戦後の首相の経済政策を中心とした政策概要を纏めた一冊。新書本らしい企画ながら、各内閣における所信表明演説はじめ、施政方針演説、財政演説、経済演説からもひいて紹介しているあたり、かなりの労作である。
昔、といってもせいぜい20~30年前のネット界隈(パソ通全盛期からインターネット黎明期)と異なり、今のウェブ界隈では昔であれば常識であったことが全く知られてないということが当たり前で思わず仰け反ることが、ままある。例えば、保守本流と言って清和会が出てくるとか、ぼくみたいなおじさんからすると頭が痛い限りだ(本書にはそこまで詳しく出ていないが、保守本流と言えば平成研究会や小沢一派が系譜的には該当する。清和会保守傍流が正解)。それこそwikipediaで自民党の歴史でも追っかけてくれていれば多少はまともな会話ができるのだけれども、それもしないでわめく連中とは、とてもじゃないけどやっていられないというのが正直な感想だ。こんなことを言うとお叱りを受けそうだけども、派閥とは何か? だとかそんなところから教えて差し上げなきゃならないなんて、オレは池上彰じゃねぇってぇの!
本書はそんな戦後日本の政治的系譜をかなりしっかりと押さえている点で十分有益だと思う。これを通読した上で、よくわからない点をwikipediaあたりで補足すれば、少なくとも床屋政談をする上で十分すぎるものだと思う。特に、経済政策の効果という点については前後の内閣との関係も詳述してあるので、ここらへんについて語りたい向きは読んでみるといいだろう。
ぼく自身も、一発屋経済官庁であるところの経産省(通産省)がいつからそうなったのか? という点で佐藤内閣という一つの頂点が転換点になっているということを把握したし、記憶がおぼろげだった歴代内閣の政策について総ざらえできたという意味では中々読み応えがあった。
政治がどうこうと語りたいならまず一読、そして座右に。興味の無い向きも新聞の政治欄を楽しく読むことができる一冊だと思う。