伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

今日のはてブ(2016/11/18~2016/11/29)(2)

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一時期フライトシミュレーションにハマっていたのですが、最近はとんとご無沙汰だったりします。
伊達要一です。

コンピュータは全てを解決するものではない――不完全で問題だらけの自動運転

運転支援システムで「ヒヤリ」5割以上…自動運転を巡る世界の覇権は? | レスポンス(Response.jp)

調査の母数が少ないので参考程度だけども、地上側インフラが未整備な現段階でいわゆる「自動運転」には無理があるという一つの証拠なんでしょうね。

2016/11/29 10:36

はてブにも書きましたが、調査の母数が少ないうえに「どのようなシーンでヒヤリとしたか?」という情報が無い以上は詳しく論評するのは難しいところですが、いわゆる「自動運転」に関する現時点での限界を示すひとつの傍証ではないかと思います。

以前にもこの話題には2日連続で「本日の更新」で触れています。
yohichidate.hatenablog.com
yohichidate.hatenablog.com
本稿もその繰り返しになってしまうのですが、改めてこの場でまとめておきたいと思います。

まず、私自身は自動運転技術という領域についてはあまり夢を見ていない立場です。
もちろん、50年スパンくらいの長い目で見れば人の手で操作せずとも走行するレベル4の自動運転車は実現するでしょう。現在でも特殊な環境*1では存在している以上、不可能な技術では無いのは言うまでもありません。
ただ、公道という環境下で完全自動運転を可能にするには相当長い年月が必要でしょう。かつてのように交通事故が多発し多くの死傷者が出たとしてもそれを許容するという時代ではないわけで、極めて段階的に導入する必要があるし、そうあるべきだからです。それ故に、Teslaのある意味IT屋のパースペクティブ――走りながら考えて問題が起きたら対処すればいい――は個人的にあまり許容したくないものがあります。

運転の自動化という観点で参考になるのが航空業界と鉄道業界です。
両者に共通するのは、オペレーションを極めて少ない人数*2で行っているという点と多頻度運航が求められるという点、そしてコンピュータシステムによる操縦支援技術が著しく進歩している点が挙げられます。

まず航空業界で言えば、かつては2名体制の運行というのは非現実的なものでした。最低でも、機長、副操縦士、航空機関士と3名での運行が当たり前で、時代を遡れば航法を専門に担当する乗務員や通信を専門に担当する乗務員など多数の運行要員を必要としていました。現在は殆ど全ての機材で機長と副操縦士の2名体制での運行*3が可能となっています。これが実現した最大の理由は航法支援技術と自動化技術です。

かつてはある意味ルネッサンス期の船舶と同じように、コンパスとチャートそれに計器を頼りに全ての操縦を人の手で実施していたところから、無線施設からの電波やGPSを用いた電波航法やコンピュータシステムを用いた自動操縦の技術によってワークロードを大幅に減らすことに成功しました。これによって通信や航法を専門に担当する乗務員や航空機関士が居なくとも航空機の運行が出来るようになっています。
とりわけ航法支援技術の進歩はこれらを実現する要因として非常に大きく、離着陸以外の運行においてはほぼ全てをコンピュータシステムで行い運行要員は例外的な状況に対応することに専念するようになりました。また、離着陸も一部は機長が実施しますが技術的には全自動で行うことが可能になりつつあります。現実的には様々な気象条件などからあまり使われていないようですが。

航空業界における自動化の要因ですがこれを自動車に当てはめてみると自動操縦技術の側に重きが置かれており、航法支援にあたる部分についてはあまりスポットライトが当たっていません。実際には高度道路交通システム*4の形で徐々に現実のものとなってきていますが、未だに全国くまなくというレベルには至っていません。現時点では高速道路や主要道に整備が始まっているという段階に留まっています。
また、航空機レベルの航法支援という観点ではGPSを用いたカーナビゲーションシステムがありますが、あくまでも「道案内の手段」に留まっておりこれによって自動車の制御管制を行うというような話はあまり出ていないと言っていいでしょう。

次に鉄道業界です。こちらでは自動列車運転装置*5として、無人運行されている路線は既に存在します。オタク界隈では色々とお世話になっているであろうゆりかもめや新しいところでは日暮里・舎人ライナーといったところが挙げられますでしょうか。地下鉄などでも運転士が乗務するものの出発ボタンの操作以外はほぼ全自動というケースが存在します。
ただ、これらに共通するのは踏切や在来型のプラットホーム*6が無いある意味独立した運転が可能ということです。要するに例外的な処理を行う必要が無いわけです。

さらに付け加えるならば運行頻度もラッシュ時を含めて極端な多頻度運転*7を実現するうえで自動列車運転装置やホームドアという設備がネックになることが多く、結果として自動列車制御装置*8という運転士を支援する仕組みの導入に留まっているというのが現状です。

さて、自動車の自動運転を考えてみたいと思います。
先進主要七カ国に限定して考えてみても、道路交通というのは航空業界や鉄道業界以上に複雑な平面交差を有し、時間帯や場所によっては極めて過密な状態となっています。さらに厄介なことに歩行者や自転車、二輪車といったおよそ自動運転とは真逆な存在まで混ざっている交通状況です。

また、先にも述べた通り航法支援を行うための設備もまだまだ未整備と言っていい状態です。さらに道路の場合、どこまでを整備の対象とするのか? というのも大きな問題となってきます。航空業界で言えば最も危険性の高い空港やその近辺を重点的に整備し、それ以外の箇所は無線航法を中心に整備するというやり方で対処してますし、鉄道の場合は言うまでもなくレールのあるところを整備しています。翻って道路の場合、大規模な自動車専用道路から一般国道都道府県道、市町村道、果ては狭隘な生活道路までありとあらゆるところに自動車交通が発生します。これらについて全て自動運転を行うための航法支援設備を設置するのは現実的と言えません。さらに厄介なことに狭隘な生活道路こそ対歩行者の事故が発生しやすく自動運転技術が求められているという側面まであったりしますが、これに対する解決策は今のところ自動車側に搭載したカメラやレーダーといったセンサーによって検知・判断をするしか無い状態です。完全性を求めるには非常に難しいと言っていいでしょう。

冒頭に述べた通り、50年後くらいを見据えればこれらの問題は解決することでしょう。
ディープラーニングにおける過学習の問題なども克服されたり、低廉な地上側の航法支援技術が開発されて人の操作を介さずにモビリティを得る時代がいつかは来ることになると思います。

ただ、それは今日、明日すぐに実現するものではなく長い年月をかけて得られるものだし、急激な変化は望ましいものではないでしょう。繰り返しになりますが、かつて「交通戦争」と呼ばれたように交通事故が多発し多くの死傷者が出た時代が再び訪れることを誰も望んではいないわけです。

最後は過去の原稿から引用して締めたいと思います。

世間で言われているような「自動車会社の終焉」だとか「トラックドライバーの職が無くなる」というのは明らかに暴論であって、そんなことが今日明日発生すると考えるのはバカバカしい話です。
よしんば先進国で設備が整って普及したとしてもそれが発展途上国なんかに波及するのに何年かかるんでしょうか。また道路側のインフラは当然メンテナンスが必要なわけで、作ってハイおしまいというものでもない。


技術の進歩によって自動化が進むことそのものは歓迎すべきことだし、そういった技術を搭載した自動車が今後主流になっていくことは否定しないけども、いかにも明日にはそうなりますみたいな話が大手を振っている状況は違和感を覚えます。明らかにそういった技術で商売をやっていきたい会社の宣伝に乗せられているとしか思えない。

本日の更新(2016/10/28) - 伊達要一の書棚と雑記

*1:公道以外の鉱山など

*2:航空業界の場合は殆どの場合機長と副操縦士の2名体制、鉄道業界の場合は1名以上が殆ど

*3:ただし、国際線でも日本からヨーロッパ・北米に向かうといった長距離運行を行う際には機長2名、副操縦士1名の3名体制

*4:ITS、Intelligent Transport Systems。これを活用しているのがDSRCサービスであり現在のETC2.0

*5:ATO、Automatic Train Operation

*6:ホームドアが存在しないプラットホーム

*7:京王電鉄京王線大阪市営地下鉄御堂筋線がラッシュ帯30編成/時、東急電鉄田園都市線JR東日本中央快速線が29本/時。その他大都市圏の私鉄の主要区間などもラッシュ時はこれに準ずる多頻度運転を行っているケースが多い

*8:ATC、Automatic Train Control。字義だけを見れば自動運転に見えるが列車間隔や信号、速度制限をコンピュータシステム等で制御し、制限を超過した際に安全寄りに動作させる保安設備の一種である