伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

地域経済と中小企業(関満博/ちくま新書)


中小企業研究で著名な明星大教授の著者による、東京近郊の中小企業集積について分析・研究した成果を纏めた一冊。
京浜工業地帯ということばを今でも小学校では教えているのだろうか? 今日ではこういった形態での工業集積分類はあまり意味が無いとされているが、かつては東京は商業都市という側面の他に工業都市という側面があったのだ。それは、本書で扱われている城南地域なり城東地域、それに時代が下ると多摩地区といった地域に集積されていた。これに神奈川県(ちょうど城東地域から延伸するかのように展開されていく)を加え「京浜」という地域が一つ大きな工業的集積として形成されているということだ。こういった観点での「工業地帯」という捉え方は小学校は当然やらないし、中学・高校でももしかしたらやらないかもしれない(ごめん、ぼくは地理をろくすっぽ勉強してなかったんだ)。だが、こういったことを再認識するためにも本書は適切だと思う。
一番おもしろかったのは墨田区の事例だ。この地域に住む「工業」に関わるひとたち(そこには行政も当然含まれる)が「工房ネットワーク都市」と定義し、独自の活動を営む姿は読んでいて真に迫るものがあった。本書でユニークなのが、こういった墨田区のことを「寿司屋のカウンター」と述べていることだ。実際にカウンターしかない寿司屋を想像してもらいたい。なんとなく、墨田区で生産すべきものの位置づけが見えて来るではないか。また、その中で著者が述べていることが興味深い。

世間では、付加価値の低い仕事はアジアへという論調がみられるが、事態はそう単純ではなく、一つのまとまった仕事として付加価値の高さが議論されるべきである。このことは、むしろ、付加価値の配分に問題があることを示唆しているのかもしれない。(本書p130)

これを読むと近視眼的に生産拠点やサービス部門を簡単に海外に移転することのアホらしさにあきれてしまう。日本という大きな地域の中でどう付加価値を上げていくか? ということが重要なのに、目先の数パーセントの利益のために全体の付加価値を毀損するようなマネをやっている経営者どもに、著者の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。
本書の上梓が1995年と少し前なのだが、現状は本書に記載の延長線上にある。東京地域の中小企業の現状について知りたいなら当然必読。そうでなくとも、中小企業が都市の中でどうあるべきか? ということを知るためにも、一度手に取ってみては如何だろうか?