伊達要一の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

任侠学園(今野敏/中公文庫)

現実に存在しない情景を描くことをファンタジーというならば、所謂「任侠モノ」というのは大層ファンタジーな代物であろう。古くは高倉健主演のヤクザものなんて、まさに当時においても幻想の産物であろうし、新しいところで言えばドラマの「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」なんかもわかりやすくファンタジーだった。付け加えるならば浅田次郎の描くところのコミカルなヤクザもあれだってファンタジーだ。作中、時代遅れというエクスキューズはあるから、そこを認識してのキャラクター造形とお見受けする次第。
さて、そんなファンタジーな連中をただ幻想のものとして遊ぶのはつまらない。世は大クロスオーバー時代である。傭兵と超人プロレスラーとアニメキャラの美少女とアスキーアートで描かれた白饅頭が伝説の雀士に率いられて野球をする時代である。
本作で描かれるヤクザはある種伝統的な幻想に則ったヤクザである。縄張りの素人衆のために身を張って渡世を生きる彼らはそれこそ極めてわかりやすい渡世人(※)という類の任侠である。
そんな彼らがクロスオーバーするのは、落ちこぼれだらけの崩壊した高校である。その場所が三鷹――中央線沿線というのがまた微妙にリアルである。ぶっちゃけ、あの界隈はちょっとまともな連中であれば気の利いた公立校かさもなくば名門私立に進学する。自然、落ちこぼれだらけの高校があってもおかしくない。
作中、幻想のヤクザらしいやり方で学校を建て直すのだが、その中身は読んでのお楽しみ。実際、ちょっと読み足りないなぁと思う分量なのだが、肩の力を抜いた読書の対象としてはうってつけである。大衆小説、かくあるべし、なシロモノだ。見かけたら買って読んでみても損は無いだろう。

(※)作中の描写で博打を開いている描写が無く、そういう収入源がなくミカジメ中心なのでこの表現が適切だろう。もしかしたらどこかの神社でテキ屋をやってるかもしれないが。