伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

ガッデム(新谷かおる/MF文庫)

   
モータースポーツというのはいつの間にか日本ではかなりマイナーなものとなってしまった。F1は地上波での放送が無くなってCSに移行しちゃったし、SuperGTもそれなりに人気はあるものの、どうしてもコアな連中だけに支持されている感がある。それに、日本でやっているというのに、実況中継は相変わらず地上波ではない。ヘンな再放送とかゆるいバラエティを流すよりも、よっぽど面白いものなのにと隠れモータースポーツファンのぼくとしてはほぞを噛む思いだ。
さらにラリーとなると…… もうこれはお察しのレベルだ。昔は日本でもラリーがちょこちょこ行われていたが、今となってはもうやっていない。それどころか、スバルのインプレッサが一人気を吐いていたのも昔の話だ。寂しい限りである。
でも、ラリーってとっても面白いものなんだよね。サーキットという、ある意味クリーンな環境ではなくて、普通のクルマが走るような道を突っ走る。クルマの本当の実力をはかるという意味では、物凄く意義深いしエキサイティングなものなんだ。
本作はそんな自動車ラリー競技を取り上げたフィクションだ。外国メーカーは実在するものを使っているけども、国内のメーカーは一応架空のものとなっている。でも、ちょっと読めばどこの会社がモデルかは大体想像がつく程度のもじりだから、コアなファンからするとクスリとできるかもしれない。
自動車ラリー競技というのは、物凄くもどかしいものだ。普通のレースであれば、一番最初に到着したヤツが勝つというとってもわかりやすいものなのだが、そうはいかない。点数とタイムで争われる競技だから、すべてのクルマが帰ってくるまで結果が出ないなんてこともありうる。そこがわかりにくい、マイナーなものにしている原因の一つなのかもしれないが、本作を読むとそれがまさに魅力だということがわかる。複雑なレギュレーションの中、ドライバーだけじゃない各チームそれぞれが力の限りを出し尽くすことが勝利につながるということが、とても複雑で興味深い人間ドラマを描き出すことになる。本作はその魅力を十分に書き記していると言っていいだろう。
若者の自動車離れと言われている。その実は自動車メーカーをはじめとした連中の自業自得(若者が十分な可処分所得を得られない状況と、ムダに高い維持費、それにほかの娯楽に勝つだけのPR不足)なんだけども、それでも自動車というメカはとても面白いものだ。こういった作品から自動車というものに興味を持ってくれると非常にうれしい。