伊達要一の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

現代アフリカの紛争と国家(武内進一/明石書店)


アフリカの紛争というとどういったものを想像するだろうか? たとえばルワンダのジェノサイドもその一つだし、最近起きた(起きている)イスラム過激派のテロリズムもその一つと言える。もっと細かいものを取り上げるとキリが無いほどだ。
ぼくの持つイメージというのは資源の権益(石油だとかダイヤモンドだとかだ)を巡って主流派と反主流派がドンパチやっている内戦のイメージが非常に強い。これは松本仁一カラシニコフで読んだ「失敗国家」の記述が非常に強烈で今でもその印象に囚われているからだと自己分析している。実際、アフリカの権力闘争のイメージというのは、角福戦争を武器を使ってやっているような、そんなプリミティブなものと思っている向きも多いかと思う。
だが、本書はそのイメージは時代遅れな考えだと一刀両断している。実の所そういった紛争はむしろ1960年代から1980年代には主流だったが、それ以降、とりわけ1990年に入ってからの紛争は少し違ったものなのではないか? という指摘をしている。本書ではそれをポストコロニアル家産制国家とそれの解体による紛争という言葉を使って説明している。これを簡単に言ってしまえば、権力者とその取り巻きが一切合財を握っている体制のことで、植民地後だから「ポストコロニアル」というくらいの意味である。この体制が1960年代から1980年代に続き、それが1990年代に入って解体され始めたことで今のアフリカにおける紛争激化が起きたのだと筆者は指摘する。
アフリカという国はこの書評でも関連する書籍の書評で何度も指摘しているが、日本とはあまりに縁遠いこともあって、とかく一面的な見方をしてしまう傾向がある。かくいうぼくも、ポストコロニアル家産制国家的な見方を未だにしてしまっていたことからもよくわかると思う。だからこそ丹念な統計的分析とヒアリング資料の分析を用いることで、その迷妄を分析してくれた本書は、極めて啓蒙的で優れた分析だとぼくは思う。
ケチをつけることは幾らでもできると思う。特にイスラム原理主義との関連(特に北アフリカ諸国における)についての言及があまり無い点も不満だし、実際に従来的な紛争とは一線を画したものなのか? という点についても若干食い足りないところがある。ルワンダのケース分析が中心になっているので、このケースだけでアフリカ全土の紛争を説明しようというのは若干無理があるようにも思う。だが、アフリカという物凄く大雑把な括りの中の一つの見方として本書の指摘は極めて有意義だ。
一般向けの読み易い本ではなくガチガチの専門書だし、広くオススメするにはちょっと厳しい本であることは間違いない。だが、それでも見聞を広めたい若いひとたちには是非ともトライして欲しい一冊であることには間違いない。読了することで、アフリカについて新たなパースペクティブを得られること間違いなしだ。

図表リスト
凡例
地図〈アフリカの国家〉

序 問題の所在と方法

第Ⅰ部 1990年代アフリカの紛争をどう捉えるか
第一章 1990年代アフリカの紛争
 はじめに
 第1節 発生頻度と類型化
 第2節 紛争の新たな特徴
 第3節 先行研究の視角
 まとめ

第2章 ポストコロニアル家産制国家(PCPS)の解体としての紛争
 はじめに
 第1節 独立後のアフリカにおける国家の特質
 第2節 ポストコロニアル家産制国家(PCPS)
 第3節 特質の由来
 第4節 PCPS解体の契機
 第5節 PCPSの解体と新たな紛争の特質
 第6節 植民地秩序とポストコロニアル秩序
 第7節 ルワンダという事例
 第8節 議論の進め方
 まとめ

第Ⅱ部 植民地統治の衝撃
第3章 植民地化以前のエスニシティと統治
 はじめに
 第1節 エスニシティの起源
 第2節 統治体制とエスニシティ
 まとめ

第4章 植民地化とルワンダ国家
 はじめに
 第1節 植民地ルワンダの領域的形成
 第2節 植民地経営の改革
 第3節 植民地経営の理念と現実

第5章 植民地期の社会変容
 はじめに
 第1節 社会的不平等と社会秩序
 第2節 土地制度の変容
 まとめ〈第4章・第5章〉

第6章 「社会革命」
 はじめに
 第1節 信託統治地域の政治制度改革(1956年まで)
 第2節 万聖節の騒乱
 第3節 国際社会の介入
 第4節 農村社会にとっての「社会革命」
 まとめ

第Ⅲ部 ポストコロニアル家産制国家(PCPS)の成立と解体
第7章 カイバンダ政権期の国家と社会
 はじめに
 第1節 政治体制の制度的性格
 第2節 政治制度の実態
 第3節 ローカルな権力と農村社会
 第4節 「イニェンジ」侵攻とその影響
 第5節 対外関係
 まとめ

第8章 ハビャリマナ政権の成立と統治構造
 はじめに
 第1節 クーデター
 第2節 ハビャリマナ体制の骨格
 第3節 インフォーマルな権力中枢
 まとめ

第9章 混乱の時代
 はじめに
 第1節 経済危機
 第2節 内戦勃発
 第3節 政治的自由化と急進勢力の膨張
 まとめ

第10章 ルワンダ・ジェノサイドに関する先行研究
 はじめに
 第1節 積年の「部族対立」
 第2節 経済的要因、農村社会経済構造
 第3節 人種主義と利得
 第4節 全体主義的動員
 第5節 フトゥ集団内の圧力

第11章 ジェノサイドの展開
 第1節 ハビャリマナ大統領搭乗機撃墜事件
 第2節 新政権の発足
 第3節 ジェノサイドの主体
 第4節 地方におけるジェノサイドの展開過程
 まとめ

結論 アフリカの紛争と国家
 第1節 〈第Ⅱ部〉〈第Ⅲ部〉の要点と主張
 第2節 含意
 第3節 PCPSの移行

写真構成:ルワンダの人びとと風景

補論1 聞き取り調査について
補論2 ジェノサイドに関する主要人名録

あとがきと謝辞
引用文献
索引