伊達要一の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

世紀の空売り(マイケル・ルイス、東江一紀 訳/文春文庫)


リーマンショックというと、ぼくにとってはなにげに感慨深いものがある。いってみれば、ぼくが諸事情により傘貼り浪人のようなマネをしているとき、ちょうどリアルタイムで起きている現象を見ていたのだ。正直、やることもなく不遇をかこっていたが故に朝から晩までCNBCを見ているという今となってはなんとなく羨ましい生活だった。株式は大暴落し為替は荒れ狂い、カタストロフという印象を受けていた。
だが、そんな狂乱の原因がなんだったのか? というのはあまり真面目に検証されていない。「強欲資本主義」とカリカチュアライズされた言葉だけが飛び交っていて、そこで扱われていた怪しげなシロモノ――サブプライムローンとCDOは言葉だけ消費されて実際どのようにロクデモナイしろものだったのか検証されてない気がする。
本書はそんなサブプライムローンに対し真っ向からショート(空売り)した3組のヘッジファンドについて述べたノンフィクションだ。著者自身もかつて投資銀行のソロモンブラザーズに勤務していた経験もあり、このロクデモナイ世界の語り手としてはうってつけと言えよう。
このサブプライムローン証券化商品はどんなに取り繕っても上品な説明ができないシロモノだ。ありていに直截的に語ってしまうならば、クソを溶いたものをミソと混ぜて売るようなものだ。そしてそのクソには時限式の毒薬が仕込んである――信じられないかもしれないが、これが真実なのである。そのからくりに気づいた3組のヘッジファンドの戦いについては本書を読んでもらうとして、実際その狂乱の中で踊っていたアメリカという国は、結局この後始末に物凄い労力を払い続けている。
本書に描かれているウォール街の関係者はそろいもそろってまともなヤツが一人たりとて居ない。正直、かつて金融業界を志した人間としてはとてつもなくげんなりするし、テレビ東京の大江アナウンサーが無事にやっていけるのか(NY支局に栄転なさってしまったのだ……)正直心配な気分になるのだが、まあ、著者に言わせれば昔からそうだったらしい。実際先述したような「強欲資本主義」という言葉もあながち間違ってはいないのかもしれない。それではこの仕組みに真っ向から立ち向かった3組のヘッジファンドの関係者がまともかというと、それもさにあらず。正直に言って、こちらも大概なお人だったりするあたり頭が痛くなる。アメリカの金融業界、こんなのばっかかよ!
実際、読んでいて吐き気を催す邪悪に気力を奪われること間違いない一冊である。だが、それがアメリカの――そして世界の金融業界の現実である以上それを直視しなきゃいけない。その上で、歪んだプロフェッショナルどもの首根っこを押さえるために、われわれがどうしていかなきゃいけないか考える――そのきっかけとなる最良の一冊であると思う。

序章  カジノを倒産させる
第一章 そもそもの始まり
第二章 隻眼の相場師
第三章 トリプルBをトリプルA
第四章 格つけ機関は張り子の虎である
第五章 ブラック=ショールズ方程式の盲点
第六章 遭遇のラスヴェガス
第七章 偉大なる宝探し
第八章 長い静寂
第九章 沈没する投資銀行
第十章 ノアの方舟から洪水を観る
終章  すべては相関する
謝辞
訳者あとがき 『ライアーズ・ポーカー』からの道程