伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

日本人のためのアフリカ入門(白戸圭一/ちくま新書)


アフリカといえばどのようなものを連想するだろうか。紛争? 飢餓? 貧困? 部族対立? 汚職や不正? たしかにこれらはアフリカという地域の一つの側面である。一時期コピペネタとして「ヨハネスブルグのガイドライン」なるものが流行った時期がある。今ではある意味ジャーゴンとして消化されているが、そこで述べられているヨハネスブルグというのは、それはそれは酷い街のように印象を受ける。ここにそれを引用してみよう。

 ・軍人上がりの8人なら大丈夫だろうと思っていたら同じような体格の
  20人に襲われた
 ・ユースから徒歩1分の路上で白人が頭から血を流して倒れていた
 ・足元がぐにゃりとしたのでござをめくってみると死体が転がっていた
 ・腕時計をした旅行者が襲撃され、目が覚めたら手首が切り落とされていた
 ・車で旅行者に突っ込んで倒れた、というか轢いた後から荷物とかを強奪する
 ・宿が強盗に襲撃され、女も「男も」全員レイプされた
 ・タクシーからショッピングセンターまでの10mの間に強盗に襲われた。
 ・バスに乗れば安全だろうと思ったら、バスの乗客が全員強盗だった
 ・女性の1/3がレイプ経験者。しかも処女交配がHIVを治すという都市伝説から
  「赤子ほど危ない」
 ・「そんな危険なわけがない」といって出て行った旅行者が5分後血まみれで
  戻ってきた
 ・「何も持たなければ襲われるわけがない」と手ぶらで出て行った旅行者が靴と
  服を盗まれ下着で戻ってきた
 ・最近流行っている犯罪は「石強盗」 石を手に持って旅行者に殴りかかるから
 ・中心駅から半径200mは強盗にあう確率が150%。一度襲われてまた襲われる確率が
  50%の意味
 ・ヨハネスブルグにおける殺人事件による死亡者は1日平均120人、
  うち約20人が外国人旅行者。

また、これもある種ジャーゴン的に消化されているが、一時期ジンバブエのハイパーインフレもネタになった。これがネタになる言論空間のなかでは、ジンバブエの愚かな政策を揶揄し嘲笑することをみな前提として、それぞれの持論を展開するという、ある種頭の痛くなるような構図が存在していた。
このようにアフリカというのは、日本人からすれば極度にネガティブなとらえ方をされている地域である。
一方で近年では資源をめぐって中国が活発に活動をしていることから、日本もバスに乗り遅れるなとばかりに外交を展開すべき、という意見もある。
本書はそんなアフリカという地域に対するネガティブな見方や一面的な見方を諌める一冊だ。
日本から見たアフリカというのは実の所「遠い国」であり、毎日新聞で特派員をやっていた著者も新聞紙面に記事を載せるべく悪戦苦闘していた。結果、そこで起きることは欧米で大々的に取り上げられた段階で記事になるという「後追い報道」である。本書を読んでいて特派員としての筆者の苦悩がよく伝わってくる。また「あいのり」のヤラセ疑惑について触れているところについては、日本サイドの上から目線に釈然としない筆者の心情に自然と感情移入してしまう。
実際の所、アフリカという地域全般を一言で切ってしまおうとすることは傲慢極まりないし、松本仁一のアフリカに関する著作を読んでいてもあまり適切ではないことは自明である。だが、現実的に(物理的にも、政治的にも)遠いことは事実であって、もどかしさを抱えながらも一括りにせざるを得ない部分がある。
じゃあ、どうすればいいのか? ここで一言で言えるほど簡単な問題じゃない。理想論を言えば、ひとりひとりが知識を備えるということなのだろうけども、世の中を見渡してみてもそれはあまり現実的ではないと思う。ただ、知識を得ようとする、実態を知ろうとする努力は必要なことは当然のことだ。ましてや、先述したコピペやネタをもって、ただただ嘲笑するような態度は賢明ではない……というかむしろ愚かだとぼくは思う。
本書がアフリカの現実を余すところなく紹介した一冊だとは言えない。残念ながら新書本らしい軽さがあることは否定できない。ただ、本書のような本、そして本書で紹介されているような本を読んで知識を得ることで、より懸命になろうとする態度こそが今のぼくたちにできる最大限の努力だし、知性というもののあらわれなのではないだろうか。

やや長めの「まえがき」

第1章 アフリカへの「まなざし」
 1 現代日本人の「アフリカ観」
 2 バラエティ番組の中のアフリカ
 3 食い違う番組と現地
 4 悪意なき「保護者」として

第2章 アフリカを伝える
 1 アフリカ報道への「不満」
 2 小国の内政がニュースになる時
 3 「部族対立」という罠

第3章 「新しいアフリカ」と日本
 1 「飢餓と貧困」の大陸?
 2 「新しいアフリカ」の出現
 3 国連安保理改革をめぐる思惑
 4 転機の対アフリカ外交

終章 「鏡」としてのアフリカ
 1 アフリカから学ぶことはあるか?
 2 「いじめ自殺」とアフリカ
 3 アフリカの「毒」

アフリカについて勉強したい人のための一〇冊
あとがき