伊達要一の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

ルポ貧困大国アメリカII(堤未果/岩波新書)


前作でジャーナリストとして一躍有名になった著者の続編。アメリカにおける教育や社会保障、医療制度、治安問題について述べた一冊だ。
前作でも述べたが本作の論調は比較的左派的な見解が中心になるし、アメリカにおいてもメジャーな意見としては扱われていないというのが正直なところだ。ただ、ここで述べられていることは紛れもなく真実であるのは確かである。
学資ローンの問題は実の所本書が刊行された2010年当時よりも、もっと悪くなっているのが現状だし、社会保障や医療制度が事実上クソみたいなものになっているのも間違いない話だ。治安問題については、日本から見て単純比較できないところもあるので難しい所ではあるけど、事実のある一面をとらえているとは思う。
社会保障や医療制度の問題については、メジアン(=中流層……と呼べるひとたちもアメリカでは減っているのだが)ですら無保険状態で、ちょっとした病気で莫大な費用を支払わねばならないのは意外に思うかもしれない。だけどこいつは間違いなく事実なのだ。実際、ウォールストリートで働く連中(ヘタしたら上流層に含むべきじゃないかってレベルね)ですら、ちょっとした病気のためにバカらしくなるほどのお金を費やしている。そして子どもが居たら、もっとだ。本書で書かれているように、子どもに「まともな」教育を受けさせるために、こちらもアホほど金を払う必要がある。
言ってみれば、本来ナショナル・ミニマムとして負うべき部分が毀損しぼろぼろになってしまっているというわけだ。ただし、それをもたらしたのは本書で述べるような資本家たちの陰謀……だけではないのが厄介なところなのだ。これはティー・パーティのような頭痛が痛くなるような(これで何が言いたいか察してね)連中が、グラス・ルーツで形成されていることからもわかる。これらは一面としては陰謀論的ロビイング活動の結果でもあるけども、別個には構造的な問題でもあるし、有権者たちの問題でもあるのだ。
こういった点において本書は突っ込みが足りないと言わざるを得ない。事実を切り取るという点では本書は成功しているし非常に有益ではあるんだけど、その背景にあるものに対する視野が残念だけど狭すぎる。そういう意味では「左巻き」という悪評を甘んじて受けないといけないというところはある。
ただ、どうだろう。大部分の「左巻き」と批判する連中はここで描かれている「事実」を知っているんだろうか? おそらくそうではない。ヘタをしたら半径5メートルで人生が完結しているような人(これもお察しください、ね)だって居るわけだ。そういう狭い知識で狭い視野を批判するのは、愚者のゲームとしか形容できないと思う。
批判は批判としてすべき本だとは思う。ただ、ここで描かれている「事実の一面」を知ることはそれとして必要なことだとぼくは思うし、そのためだけに読む価値は充分ある本だと言っておこう。

プロローグ

第1章 公教育が借金地獄に変わる
 爆発した教師と学生たち/猛スピードで大学費用が膨れ上がる/広がる大学間格差/縮んでゆく奨学金、拡大する学資ローン/学資ローン制度の誕生とサリーメイ/数十億ドルの巨大市場と破綻する学生たち/消費者保護法から除外された学資ローン制度/ナイーブな学生たち/学資ローン業界に君臨するサリーメイ/子どもたちをねらう教育ビジネス/

第2章 崩壊する社会保障が高齢者と若者を襲う
 父親と息子が同時に転落する/企業年金の拡大/これがアメリカを蝕む深刻な病なのです/退職生活者からウォールマートの店員へ/増大する退職生活費、貯金できない高齢者たち/拡大する高齢者のカード破産/問題は選挙より先を見ない政治なのです/一番割を食っているのは自分たち若者だ/市場の自由と政治的自由

第3章 医療改革 vs. 医産複合体
 魔法の医療王国/オバマ・ケアへの期待/排除される単一支払皆保険制度派の声/公的保険を攻撃するハリー&ルイーズのCM/製薬業界のオバマ・ケア支持と広告費/医療保険業界と共和党による反オバマ・ケア・キャンペーン/無保険者に保険証を渡すだけでは医療現場がパンクする/プライマリケア医師の不足/You Sick, We Quick(病気の貴方に最速のサービスを)/これは金融業界救済に続く、税金を使った医療業界救済案だ/この国には二種類の奴隷がいる

第4章 刑務所という名の巨大労働市場
 借金づけの囚人たち/グローバル市場の一つとして花開く刑務所ビジネス/第三世界並みの低価格で国内アウトソーシングを!/ローリスク・ハイリターン――刑務所は夢の投資先/魔法の投資信託REIT/ホームレスが違法になる/アメリカの国民は恐怖にコントロールされている

エピローグ
あとがき