伊達要一の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

決戦下のユートピア(荒俣宏/文春文庫)


博学で知られる著者による第二次大戦下の日本におけるひとびとの暮らしを面白おかしく綴った一冊。
ぼく自身ミリヲタとして非常にアウトサイダーなヤツでありまして、兵器の話だとか戦術の話よりも、末端の飯炊き兵のはなしだとか輜重輸卒のはなしが大好きなわけであります。自然、たいがいのミリヲタとの交わりは疎遠になって、流通関係(輜重輸卒のはなしから、小行李・大行李、そして兵站、ロジスティクスへと発展していく)だとか著しきは米軍のマニュアル(これは神保町に専門の古本屋がある)なんぞを好んで買っては読みふけるという、何ともおぞましいドロップアウトミリヲタが誕生したわけである次第。
こんなぼく自身のヨタ話はどうでもいいのだが、この本もそんなアウトサイダーでドロップアウトしたミリヲタのぼくにとってはとっても楽しい本だ。何しろ「ユートピア」である。そもそも「ユートピア」という言葉がもとの本からして反語的意味を持つからして、どれほどのエピソードを読ませてくれるのかとワクワクしてしまう。そして、実際内容はびっくりするほど「ユートピア」であった。何しろ、のっけからロクデモナイ母親の話から始まるのである。どれほどロクデモナイ母親だったかは、是非手に取って確かめてみて欲しいが、読めば読むほど「こ れ は ひ ど い」と思わせる話で満載だ。
とはいえ、面白おかしいだけの本ではない。冒頭の一節は昨今の生真面目なのかバカ正直なのかよくわからない、青年連(もっとも本当に青年と云える年なのかは知らんが)にも是非読ませてあげたいことを綴っている。最後にこれを引用して結論に代えさせてもらおう。
「まあ、相撲でいうなら、腰を引いて左半身、といったところだろうか。ものごとはすべからく、半身がよい。ゆめゆめ、がっぷり四つ、になど組んではならない――、というのが、歴史を相手にするときの、自分流の心構えである」