伊達要一の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

フルセット型産業構造を超えて(関満博/中公新書)


中小企業研究で知られる明星大教授の著者による、日本の産業構造の転換とそれに伴う東アジア諸国との工業技術ネットワークの形成について論じた一冊。
書かれたのが1993年とこの手の本としてはだいぶ昔に感じるところではあるが、述べられている内容は今でも十分読むべきだと思う。特に、3Kと敬遠されがちな鋳造、鍛造、メッキなどの業種をはじめとした「基盤的技術」領域で歯槽膿漏的崩壊が始まっているという指摘は、今でも続いており当時よりもさらに厳しい環境にあるという理解でいいだろう。
著者は中小企業の現場に身を投じて、現場の息づかいが感じられるような報告を数多く著しているのだが、本書もそれが極めて濃厚だ。とはいっても、新書という媒体だけあって、比較的一般向けに読みやすく薄めてあるからご安心を。特に大田区の工業集積とその現状については、こういった分野に関心がある向き以外にも一読して欲しい。テレビや新聞で、円高不況=大田区の中小企業が苦しむという報道が若干ズレたものだということに気づくことができるだろう。
また、著者の三角形モデルは必見。これもよく報道でわかったようなふりをしているシロモノを目にするが、これほどまでに明確に日本の産業構造を著しているモデルはたぶん、無いだろう。韓国経済オワタ論なんかをネットでよく目にするけども、彼らもまたこういった産業構造をよく理解せずに受け売りでしゃべっている連中が多い。是非とも本書を読んで、自分たちが話している内容と実際の構造の差異を学ぶといい。
大学で経済学や経営学を学んでいるひとたちには是非読んでもらいたい。また、産業構造ってなんだろう? という興味がある高校生にもオススメ。ちょっと難しめではあるし、内容的にも高度だとは思うが、読み応えは十分。この分野について、そんじょそこらの大人よりも真っ当な知識を得られることを約束しよう。