伊達要一の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

ルポ貧困大国アメリカ(堤未果/岩波新書)


ジャーナリストとして活躍する著者による――というか本作が出世作だな――アメリカの貧困層を現場からとらえた一冊。
こと、ウェブ界隈では左巻きな論調をバカにしてかかる風潮があるし、恐らく本書で書かれているような内容はその範疇に入ってしまうだろう。実際、中南米からの不法移民なんかはとってもグレーな位置づけだし、貧困層の実体は結構自業自得と切り捨てられてもそうそう反論できない状態だったりするからだ。
ただ、本書が著者の出世作になっただけあって、そこに描かれている貧困層の現場を活写しているところはお見事。特にアメリカにおける医療費や教育周りの酷さは、実際向こうに住んで仕事をしている高給取りでもげんなりしているという話があるほどで、貧困層だけの問題と矮小化するのはあまり賢くは無い。
本書を読んでぞっとするのが、アメリカで起きている教育や医療、それに安全保障の分野がアフリカの失敗国家と相似しつつあるということだ。カラシニコフ松本仁一朝日文庫)で述べられている、国民の教育や安全保障にカネを使わず、権力闘争に終始する国家と世界の超大国に同じような姿が見えてしまうところは、正直恐怖を覚える。そして、それは日本にも部分的に当てはまりつつあるところだ。幸いにして、日本医師会・国民健康保険・厚生労働省というある種強烈極まりない鉄のトライアングルが形成されているが故に、医療問題はそうではないかな。安全保障の分野も防警察官僚それに内務系官僚の鉄の結束がとっても強いので、まだそれほどでもない。ただ、教育はいわゆる「底辺校」の問題があるし「生活保護バッシング」などを見ると、決して他人事とは言えない。
確かに書かれている内容は一部のひとたちからすれば、決して愉快なことではない。ぼく自身も若干鼻白むところがある。だけど、それだけで読むのをスルーするのは勿体ない。こんな風潮の中だからこそ、読むべき本質はあるしそこから得るべきものは沢山あるはずだ。