伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

日本の経済格差(橘木俊詔/岩波新書)


日本の経済格差を所得と資産の観点から統計分析し、政策提言をロールズの「公正原理」における「マクシミン原理」に基づき論じた一冊。
曰く「格差社会」について色々と語られる機会は多い。やれ、新自由主義的な経済がどうこうだとか、いや労働組合が既得権益にとか。やれやれだ。そんなたわごと、本書を読めば言えなくなる。それだけ、本書は価値のある研究を纏めたものだし、是非一度目を通して欲しいものだ。
本書で扱われている統計は若干古く(1998年上梓なのだ)語られている話もバブル経済の弊害にページを割いており、ちょっと古くさいように感じるかもしれない。ただ、ここで述べられている話は少しも古びてないと思う。とくに昨今の「新自由主義的政策が格差を助長した」だの「従来の政策は効率性を悪化させる悪平等がはびこっている!」などという言説に染まった読者からすれば目からウロコもんだろう。日本はとっくの昔(懐かしのバブル時代)に格差が大いに拡大していたのだ!
最初に少し昔のバブル経済の弊害についてページを割いていると書いた。だが、もしかすると今再度確認すべき話なのかもしれない。なにしろ、現政権が望んでいるのはまさにあの時代なのだから。ぼく自身はインフレターゲティング政策(リフレ政策)そのものについて、比較的懐疑的にみつつも試すことについては消極的に賛成という立場を取っている。ただし、失敗した場合には関係者にはそれなりの責任を取ってもらうのが前提だが。そういう立場に立って本書を見てみると、本当に「バブル経済」というものが良かったのか? 結構懐疑的になるし、そういう意味では政策に対する見方も変わってくるんじゃないかと思うわけだ。また、世の中の流れとして社会保障の水準を下げるという話が出始めている。これそのものが、本当に良いことなのか? その価値判断をする材料の一つとしてもこの本は機能するんじゃなかろうか。
別にこの本で述べられているような「平等」の確保が必ずしも必要だとは言わない。国民の判断として「平等」よりも「競争」や「効率」を求めるのならそれでもいい。でも、その弊害や現状を知らず言っているのはどうなんだろう。
そういった様々な「現状」を知るという観点で本書を一度読んでみることをお勧めする。確かにちょっと古い内容だし、文章もお堅いシロモノだが読んで損は無い一冊だといえる。