伊達要一の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

ドラえもんの鉄がく(国際ドラえもん学会編/にっかん書房)


ドラえもんのもつ世界の広がりというのは、考えてみると色々そら恐ろしくなるほどだったりする。例えばロボット技術という観点では鉄腕アトムと並んで一つの目標になっていたりするわけだ。
また作品世界もスゴイ。ちょっと斜に構えたモノの見方で言えば、宇宙小戦争の構図なんて「軍VS警察(内務官僚)」ということもできるし、アニマル惑星で描かれたニムゲとの局地戦はまるでベトコンのような戦争を展開している。それどころか、鉄人兵団なんか一個班(分隊の半分)と戦車に相当するザンダクロス(実際は土木用大型ロボット)、それに改良型山びこ山によるアンブッシュ兼クレイモア地雷、そして即席落とし穴による塹壕構築とヘタな架空戦記顔負けの陸戦描写がある。
さて、こんな歪んだ視点で見なくても楽しめるのがドラえもんひみつ道具だ。困ったことを解決してくれる便利な道具とそれによって引き起こされる騒動は、まさに「センス・オブ・ワンダー」であり「すこしふしぎ」な物語を提供してくれる。
本書はそんなひみつ道具をテーマにした考察書だ。発行されたのが1993年と少し前だったこともあり、考察の前提としている部分にちょっと古さを感じさせるところもあったりするが、現代で実現している技術に思いをはせながら読むのもまた一興だ。例えば、吸音機はいまやノイズキャンセリングヘッドフォンとして現実のものになっているし、たんぼロールは最近「植物工場」という概念によって実現されようとしている。そういった「現代でも実現可能かもしれない」ものを当時の技術でどこまで可能か考察しつつ、実現したことを前提に書いている記述は興味深いし「科学技術」というものに対する入り口としてもなかなか悪くない内容だ。
一方で、「現代では実現不可能」なものについては、ちょっと残念なところも多い。もう少し実現するために可能な推論を含めて詳述して欲しかったというのが本音のところだ。また、東洋哲学が云々というあたりも、ちょっと安っぽさを感じざるを得ない。科学哲学という領域はそれはそれであって、もう少し真面目に取り組んで欲しかったところ。
ただ、それを補って余るほど前半部分の考察が面白い。それにひみつ道具を現実にするという観点での論考は安直な「謎本」(この頃「磯野家の謎」のような本が流行っていたのだよ)が横行していた時代にしては大変な労作だと思う。少し前の本だけあって見つけるのは難しいかもしれないが、類書も無いことだし機会があればぜひ一読してもらいたい。「科学技術」が意外と身近なものに感じられるかもしれない。