伊達要一の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

旅は自由席(宮脇俊三/新潮文庫)

学生時代は無闇矢鱈と本を読んでいて、図書館で借りては読み、古書店で買い漁っては読み、新刊本を買っては読みと若干正気を疑うような読み方であった。 まあ、この乱読がいまの自分を形成していると思えば、そういう時代もあるのだろうと思うのだが。

本書はエッセイに若干の紀行が混ざった内容で、まさに「肩ひじ張らず読める本」といった趣向。とはいえ、この年この経験この乱読をしているからこそ、ハッとするものもあったりするから面白い。

例えば「白と黒の世界」という一編の中で触れられている「黒」すなわち「闇」については、岡山に赴任して初めて身近に接したもので、たぶん生まれてずっと東京に住んでいた学生時代にはあまり深く理解できないものだったに違いない。また、著者の両親、とりわけ父親とのエピソードを書いた数編も、一度親元を離れて暮らした我が身にとって何とも感じ入るところがあるものになっている。

年を重ねることで失うものが沢山あり気が滅入ること頻りではあるが、それでも年月を重ねこのように改めて新たな感慨をもつという体験に、つくづく読書という趣味をもっていることに僅かながら幸せを感じる瞬間である。筆者のように旅行することもなかなかままならないし、移動も自動車ばかりになってしまったが、それでもたまには列車に乗って旅をしたいという気分にひたらせてくれる、そんな一冊だ。