伊達要一の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

カラシニコフII(松本仁一/朝日新聞社)

前作の「カラシニコフ」が「失敗した国家」という非常に大きなテーマを扱っているので、どうしても期待が大きくなってしまうわけだが、本作はちょっともにょってしまう感じなのがちょっと残念。本作は前作でアフリカの諸国家のような「失敗した国家」ではなく「普通の国々」や「努力している国々」におけるカラシニコフの問題を中心に取り扱っている。

1章のコロンビアのケースは「政府に国家建設の意欲はある。しかし、アンデスという統治しにくい山地を国内に抱え込んでしまったため、治安確保の手が及ばないのだ。」と述べている。つまり地勢的問題(この地域はコカイン密造でも有名だ)から「失敗国家」の要素が地域的に発生してしまうという問題を抱えているわけだ。そこに本書の主役「カラシニコフ」が絡んでしまっている。驚くのがノリンコの「粗悪な」スポーターモデルが千ドルという高値で取引されていることだ。もっとも支払いはコカイン。つまりはその筋の方々によるあまりよろしくない取引が横行しているわけだ。この取引は本来こういう動きに対して敏感であるべきな米国の銃器通販業者が絡んでいるというのだから、驚き。実際に米国当局にとっても頭の痛い問題なのだという。

本書がスゴイのはこの話をカラシニコフ御大本人にインタビューしているところだ。当然御大はオカンムリ。ライセンスが切れているにも関わらず勝手に改設計して輸出を続けるノリンコに「開発者として不愉快だ」とまで言っている。

また、4章のAK密造の村を取材した話は目からウロコもんだった。密造銃というと、どうしたって「サタデーナイトスペシャル」なシロモノを想像してしまうのだが、ところがどっこいこの村の密造銃はレベルが違う。銃身の鍛鉄や引き金の鋳鉄といった重厚長大な設備が必要な部品は外注して、それ以外の部品をすりあわせしながら組み立てるという、なかなかどうして凄いことをやっている。ちょっと不謹慎かもしれないが、関満博教授(明星大)の産業集積の話を思い出してしまった。何となれば、日本の町工場ネットワークのようなものがここには形成されているのだ。そういう観点で見ると実は物凄くレベルの高い世界なのだ。勿論、職人の腕前によって出来不出来があったりして安定しない側面はあるのだが、それでも実用面ではほぼ問題無いと売ってる側が言ってるのだから凄い。ただし、ちょっとマニアックな視点で言えば銃身のライフリングが鍛造じゃなくて切削な分強度に劣るところはあるそうな。とはいうものの、銃に詳しい向きに尋ねるとよほど究極的な精度を求めない限りはあまり関係無いとのこと*1。いやはや「密造銃」とあながちバカにできたものじゃないと思えるところが凄いし驚きだ。

また、イラクアフガニスタンの国軍再建に東欧製のAKデッドコピーを使っていることにロシア政府やイジマシュがアメリカ政府にクレームを入れている話はなかなか興味深い。これ単体の話は傍から眺めて指さして笑うべき話なのだけども、そうも言ってられない側面がある。言ってみれば、知的財産権という観点での「ならず者国家」に口実を与えるような話にならないのかな、と。むろんパテントを軽視するような国家がどうなったかは1945年8月15日を見ればいいわけだけど、それでも先々を考えてあまり面白いこととは言ってられない。ちょっと軽挙だなあと思わせる話。これも非常に興味深い報告だ。

と、ここまでは面白い話が沢山転がっていて、日本の銃器ヲタクにも是非一読を勧めたいところなのだが、この後の章でまた雲行きが変わってしまう。アフガニスタンイラクの話について、むろん読むべき内容は沢山あるし本当に労作だと思う。軍ヲタクラスタならずとも読んで損は無い。強盗に自宅を襲撃されたアフガニスタン運輸省技術課長のアブドル・ラティフの「銃は国家だけが持つべきなんだ」という証言は非常に重いし、今後のアフガニスタンイラクを考える意味でも、非常に重要だと思う。

それでも現在進行形の話(そして朝日新聞的にあまり歓迎されないイラクアフガニスタンの米軍進駐の話)だけに、どうにもまどろっこしさを感じてならない。もっとここらへんは単純化してもよかったように思う。そして個人的に一番疑問符をつけたくなるのが国家観のところ。もちろん言っている内容は至極真っ当なものだ。ただ、それがここまで大上段に語られると若干鼻白んでしまう。ここらへんは受け取る人によって違うとは思うのだが。

それでも本書の価値は褪せるものではない。所々にある軍ヲタなら爆笑できるエピソードも健在。個人的にはノリンコが日本向けアルミサッシをやっているということは初耳だった。ぶっちゃけどこの会社向けなのか気になってしまった。

軍ヲタクラスタにもそれ以外の人にも一度読んでおくことをお勧めしたいと思う。少なくとも日本の外にはこういった問題があるということを知るもよし、純粋に軍ヲタの知識増強でもいい。知識はそれそのもので価値があるのだ。

*1:そもそも、AK-47自体の原設計を考えれば精度を求めることにあまり意味はない