伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

議論のルール(福澤一吉/NHKブックス)


日本の社会に置いて議論という知的な作業はとりわけ脇に置かれる傾向が強い。周りを見渡してもよくわかるだろう。疑問に対して質問したとしてもそこに返ってくるものは「よけいなことを考えるな!」「自分で考えろ!」「俺の言うことに従え!」。ここに知的な要素は一切無く、上位下達の押しつけしかない。鹿児島というか薩摩国においてよく言われる言葉に「議を言うな」というものがあるが、まさにこれである。
これは日本という国が知性よりも脳筋的脊髄反射な言葉が飛び交っている一つの証拠である。正直、こんなことを続けていて、この先生き残れるとはとても思えない。本書は、そんな日本人に議論というものを行う上でのルールをインストールするものである。
本書の内容は至極真っ当な議論のルールを述べたもので、その紹介の仕方(国会答弁と爆笑問題の番組を取り上げている)も含めて何も文句をつけるところはない。但し、本書を読んで議論のルールをインストールしたところで、社会の中でとても活用できる状態ではないだろう。それどころか、返ってくるものはよくて罵声か叱責、悪ければ拳骨や解雇通知が返ってくるに違いない。日本という国はかように議論というものを放棄し、脳筋な世界観の中で回っているという極めて情けない国なのだ。
だが、だからといって諦観の中で沈没していくというのもあまり賢明な態度とは言えないだろう。ぼくたち若い世代がそういったものを明確に間違っていると認識し、そういう連中をどんどん少数派にしていくことで社会を変えていく。そういったことが大事だとぼくは考える。本書はそういった能力を身につけるために最適の一冊であると思う。

はじめに
序章  蔓延する不毛議論
第一章 ルールなき議論の現在
第二章 噛み合わない議論
第三章 「爆笑問題のニッポンの教養」を解体する
終章  わかりやすい議論をめざして
議論の前に脳内にインストールしておきたい二〇のルール
引用・参考文献
おわりに

「B級グルメ」の地域ブランド戦略(関満博・古川一郎編/新評論)

B-1グランプリでも脚光を浴びている「B級グルメ」を比較的小規模な地域産業として分析した一冊。本書が刊行されたのが2008年1月と一般的にはちょっと前だったこともあり、ここで取り上げられているものは全般的にある程度定着したものが中心になる。その為、現在進行形のB級グルメは取り上げられていない。

ネガティブな話から入って恐縮だが、そもそもB級グルメには色々問題がある。元来、地元民の日常食という側面が強いものは別地域で提供が難しいなどだ。例えば岡山県は日生の「カキオコ」なんかが代表例だ。同様の問題はホルモンなどいわゆるバラエティミートを使ったメニューなどにも発生しうる。食中毒でも起こそうものなら、ブランド以前の問題になってしまう。

また「新しい」B級グルメが雨後の筍のように勃興しているのも色々と突っ込みたい所がある。正直、「なぜその地域でその食べ物が?」という疑問符がついてまわるシロモノも多いのだ

本書がそういったB級グルメの負の側面に焦点をあてられているかというと、極めて限られた範囲にとどまっている。正直に言えば、「戦略」を名乗るには若干不満が残る内容である、と言わざるを得ない。

さらに言えば、B級グルメの成功例として列挙されている対象も若干疑問符がつく。川崎の焼肉街は「集積」という観点では重要なのかもしれないが(それでも本文中に触れられている通り、軒を連ねるという具合では無いそうな)それであれば、香川県のさぬきうどんの事例の方が成功例としてはわかりやすいし、ブランド戦略という観点では明確になったのではないかと愚考する次第。

ただ、「B級グルメ」の先行事例としては大変読むべき価値があると思う。特に盛岡のジャジャ麺については必読だ。B級グルメを展開する上での問題点について、比較的真摯に記述しており、これからB級グルメで町おこしを…と考える向きにも勉強になる記述だ。先に述べた「新しい」B級グルメに対する警鐘として、一読に値するものだと言えよう。

地域産業政策というお堅い側面ではなく勝手連的に動いていきたい、そんな人たちに本書を参考に新たな取り組みを進めてほしい、そう思える一冊だ。