伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

技術大国幻想の終わりーーこれが日本の生きる道(畑村洋太郎/講談社現代新書)

大変久しぶりであります。いちおうこのブログは「書棚」と書いている通り書評をウリにしているハズなんですが、いつの間にか全くやらなくなってしまったので、再開したいと思います。

多少生産技術や機械工学に足を突っ込んだひとからすれば、畑村洋太郎氏を知らないのは要するにモグリといえよう。ちょうどコンサルタント界隈で関満博*1を知らないのがモグリと云われるのと同じくらいと言って過言ではない。
失敗学に関しては生産技術関係だけではなくて、システムエンジニアリングの世界でもかなり有名になってきて、かなり耳にする機会も多くなってきていたり、東京電力福島第一原子力発電所事故に関しては事故調査・検証委員会の委員長も務めていて、産業・学問の領域を超えたある種著名人にまでなっていると言ってもよいだろう。

それだけに書店で本書を見かけた際に期待があまりに大きかったわけだが、正直期待はずれであった。

*1:明星大学教授。フルセット型産業構造を超えて 東アジア新時代のなかの日本(中公新書)と現場主義の知的生産法(ちくま新書)はいかなる業界関係者でも一読の価値がある名著

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空洞化のウソ(松島大輔/講談社現代新書)


現在タイ政府政策顧問として出向中の経産官僚の著者による、中小企業の海外進出をプロパガンダする一冊。正直、あまり評価できるものではない。
まず、第一に、なんでこの分野の先行研究である関満博の本が入ってないの? この時点で色々と胡散臭さが漂う。著者が東南アジアを中心とする「新興アジア」を中心に語りたいので、中国についての文献は要らないというのはご勝手だけども、先行研究をよくよく調査しないで物を語るというのはどうにも評価できない。そこらへんのうかつさは本書には随所に見られる。例えば、「新興アジア」への進出によって雇用が増えるというような話を書いているけども、関満博の「東日本大震災と地域産業復興II」(新評論)によれば、中国や東南アジアへの転注によって人員をピークよりも減らしているという現場からの証言がしっかり載っている。著者も根拠レスに語っているわけではないので「大嘘」とまでは言わないが、一面的にすぎるのは否定できない。
では、現場からのヒアリングに基づくものかといえばそうでもない。正直こちらもお粗末極まりない。ぼくレベルですら、資料を引っ張ってきてひっくり返せてしまうような話に終始してて、こちらもお話にならない。残念ながら「本代と時間を返せ!」と壁に投げつけるレベルと言わざるを得ない。
一方で、著者が述べるような海外展開というのは間違いなく必要なことだ。それは否定しようが無い事実だとぼく自身も思う。ただ、物の見方があまりに楽観的で無責任に過ぎる。経済産業省の立場、タイ政府政策顧問の立場で「新興アジア」への進出を旗振りしたいのはわかる。そしてその重要性もだ。ただ、現実に経済産業省JETROといった外郭団体がまともに役立ったと言う話は、残念ながらあまり耳にしない。現状はかつての「棄民」政策よろしく当局が何一つ日本企業をバックアップしない状態が続いている。そして、うまくいった事例を振りかざしてこんな本を書かれると正直とさかに来ることおびただしい。
経済産業省がその前身の通商産業省時代も含めて「一発屋政策官庁」と揶揄されて久しいが、残念ながらその一発屋ぶり、無責任ぶりが浮き彫りになる一冊。今のご時世、東南アジアへの投資も通りやすいだろう。この本で得られる知識もそれほど必要とは思えない。とても残念な一冊だ。