伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

ドキュメント 戦争広告代理店(高木徹/講談社文庫)

「国際的なプレゼンスを高める目的で、日本ももっとカネを使うべきだ」という意見がある。曰く「クール・ジャパン」だとかそんなのもこういったことの一環である、などと。ある種ご説ごもっともではあるのだけども、ぼく自身は素直に頷けないところがある。
それも、本書のような事例を読んでいるからだ。
本書で扱っているのはユーゴにおけるセルビア人勢力とモズレム人勢力の争いの中で、モズレム人勢力であるシライジッチとそのバックについたルーダー・フィンというPR会社の動きである。
こういった宣伝戦というと、とかく後ろ暗いイメージが強いが本書で語られる内容は驚くほど地味なものだ。こまめに読みやすいリリースをキーマンに投げる。はっきり言ってしまえば昨今流行りの「ライフハック」でもネタにならないようなとっても地味で面倒な作業だ。
しかし、この地味で面倒な作業によってモズレム人勢力は国際的な争いのステージで勝利し現在の状況に至っている。
THE FACTなんてセンスの無い新聞広告にカネを出した連中には是非とも読んで欲しい。
その上でどういうことをすべきかを考えてみてもらいたいところだ。

全線開通版・線路のない時刻表(宮脇俊三/講談社文庫)

鉄道趣味というものはとてつもなく幅広く、いわゆる「鉄道マニア」というクラスタに所属していても、全容を把握するのは困難であったりする。その鉄道趣味の中でも比較的一般人にわかりやすく、その魅力を紀行文に仕上げていたのが宮脇俊三さんだ。本書はそんな著者の手による80年代国鉄末期の「未成線」探訪記とその後第三セクターとして開業した路線のルポルタージュだ。

三陸鉄道のくだりは本書に書かれた当時は大変に快調だったのだが、その後を知っている身にはなんともやるせないし、第三セクターとして開業した各社の苦境を知っていると、この本が出た当時の明るさが若干皮肉に感じなくもない(それでも北越急行線や智頭急行線の好成績と努力や、三陸鉄道の苦闘は特筆すべきであるとおもうが)。

それでも、もともと未成線だった当時の遣る瀬無さや口惜しさに比べれば、まだマシなのだろうななどと思ってしまう。

鉄道を趣味とすることのできる国に居るという幸せと、それと同時に鉄道というものが地域社会にとってどれほど大事なものかということを知る為に、一度は読んで欲しい一冊だ。