伊達要一@とうきょうDD954の書棚と雑記

伊達要一の読んだ本の紹介と書評、それと雑記

今日のはてブ(2014/09/16)

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飲食業界の「長時間労働とサービス残業」がなくならない理由 | 日刊SPA!
[ブラック企業][経営][企業][外食][居酒屋][サービス][飲食店]本質的に「労務費」に対する原価意識が低い生業の性質が外食産業は強いことが一因なんだろうね。企業を継続させるための「オペ」「ロジ」「アカウンティング」の要素が不足している。
(追記)すき家の店舗崩壊についてもそうなんだけど、見かけ上の「ロジ」「アカウンティング」が回っている限りその他の要素に起因する問題というのは糊塗されがちなんだよね。そういうところの場合往々にして取るべきKPIが思いっきり間違っているケースもあれば、そもそも経営層がそれらの数字を読み解けないケースもあり。
そこに致命的に何かを崩壊させるような要素(すき家でいう「ワンオペと鍋メニューによる『オペ』の崩壊」だとか、マクドナルドでいう「鶏肉問題による『ロジ』のダメージを起因にして『オペ』『アカウンティング』面での作戦制約とか)が加わったときに、大打撃を受けることになる。
株屋さん的にいえばこの手の色々と見ることが出来るBtoC領域の場合、少なくとも「オペ」や「ロジ」や「アカウンティング」は銘柄を振り分ける良い材料になると思う。
需要があれば「オペ」「ロジ」「アカウンティング」のお話もどっかで書きたいところ。

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ルポ貧困大国アメリカII(堤未果/岩波新書)


前作でジャーナリストとして一躍有名になった著者の続編。アメリカにおける教育や社会保障、医療制度、治安問題について述べた一冊だ。
前作でも述べたが本作の論調は比較的左派的な見解が中心になるし、アメリカにおいてもメジャーな意見としては扱われていないというのが正直なところだ。ただ、ここで述べられていることは紛れもなく真実であるのは確かである。
学資ローンの問題は実の所本書が刊行された2010年当時よりも、もっと悪くなっているのが現状だし、社会保障や医療制度が事実上クソみたいなものになっているのも間違いない話だ。治安問題については、日本から見て単純比較できないところもあるので難しい所ではあるけど、事実のある一面をとらえているとは思う。
社会保障や医療制度の問題については、メジアン(=中流層……と呼べるひとたちもアメリカでは減っているのだが)ですら無保険状態で、ちょっとした病気で莫大な費用を支払わねばならないのは意外に思うかもしれない。だけどこいつは間違いなく事実なのだ。実際、ウォールストリートで働く連中(ヘタしたら上流層に含むべきじゃないかってレベルね)ですら、ちょっとした病気のためにバカらしくなるほどのお金を費やしている。そして子どもが居たら、もっとだ。本書で書かれているように、子どもに「まともな」教育を受けさせるために、こちらもアホほど金を払う必要がある。
言ってみれば、本来ナショナル・ミニマムとして負うべき部分が毀損しぼろぼろになってしまっているというわけだ。ただし、それをもたらしたのは本書で述べるような資本家たちの陰謀……だけではないのが厄介なところなのだ。これはティー・パーティのような頭痛が痛くなるような(これで何が言いたいか察してね)連中が、グラス・ルーツで形成されていることからもわかる。これらは一面としては陰謀論的ロビイング活動の結果でもあるけども、別個には構造的な問題でもあるし、有権者たちの問題でもあるのだ。
こういった点において本書は突っ込みが足りないと言わざるを得ない。事実を切り取るという点では本書は成功しているし非常に有益ではあるんだけど、その背景にあるものに対する視野が残念だけど狭すぎる。そういう意味では「左巻き」という悪評を甘んじて受けないといけないというところはある。
ただ、どうだろう。大部分の「左巻き」と批判する連中はここで描かれている「事実」を知っているんだろうか? おそらくそうではない。ヘタをしたら半径5メートルで人生が完結しているような人(これもお察しください、ね)だって居るわけだ。そういう狭い知識で狭い視野を批判するのは、愚者のゲームとしか形容できないと思う。
批判は批判としてすべき本だとは思う。ただ、ここで描かれている「事実の一面」を知ることはそれとして必要なことだとぼくは思うし、そのためだけに読む価値は充分ある本だと言っておこう。

プロローグ

第1章 公教育が借金地獄に変わる
 爆発した教師と学生たち/猛スピードで大学費用が膨れ上がる/広がる大学間格差/縮んでゆく奨学金、拡大する学資ローン/学資ローン制度の誕生とサリーメイ/数十億ドルの巨大市場と破綻する学生たち/消費者保護法から除外された学資ローン制度/ナイーブな学生たち/学資ローン業界に君臨するサリーメイ/子どもたちをねらう教育ビジネス/

第2章 崩壊する社会保障が高齢者と若者を襲う
 父親と息子が同時に転落する/企業年金の拡大/これがアメリカを蝕む深刻な病なのです/退職生活者からウォールマートの店員へ/増大する退職生活費、貯金できない高齢者たち/拡大する高齢者のカード破産/問題は選挙より先を見ない政治なのです/一番割を食っているのは自分たち若者だ/市場の自由と政治的自由

第3章 医療改革 vs. 医産複合体
 魔法の医療王国/オバマ・ケアへの期待/排除される単一支払皆保険制度派の声/公的保険を攻撃するハリー&ルイーズのCM/製薬業界のオバマ・ケア支持と広告費/医療保険業界と共和党による反オバマ・ケア・キャンペーン/無保険者に保険証を渡すだけでは医療現場がパンクする/プライマリケア医師の不足/You Sick, We Quick(病気の貴方に最速のサービスを)/これは金融業界救済に続く、税金を使った医療業界救済案だ/この国には二種類の奴隷がいる

第4章 刑務所という名の巨大労働市場
 借金づけの囚人たち/グローバル市場の一つとして花開く刑務所ビジネス/第三世界並みの低価格で国内アウトソーシングを!/ローリスク・ハイリターン――刑務所は夢の投資先/魔法の投資信託REIT/ホームレスが違法になる/アメリカの国民は恐怖にコントロールされている

エピローグ
あとがき

クルーグマン教授の経済入門(ポール=クルーグマン著、山形浩生訳/ちくま学芸文庫)


ノーベル経済学賞を受賞した経済学者による、経済学入門書。いわゆる教科書的な本とは一線を画し、新書本的な体裁で纏まっているものの、経済学の基本的な部分をしっかりと押さえた素晴らしいものだ(もっとも、原著はやたらと重々しいハードカバーなんだけどね)。
山形浩生さんの翻訳が非常に平易で読みやすく経済学入門者には是非おすすめしたい一冊……と言いたいところなのだが、ちくま学芸文庫版には最大にして最悪の欠陥がある。脚注が巻末に纏められてしまっているのだ。もともと本書はメディアワークスから単行本が出て(1998年)その後日経ビジネス人文庫に文庫落ち(2003年)したのだが、これらは脚注がページの中で完結していて大変読みやすかったのだ。ところが、ちくま学芸文庫に収録(2009年、今回紹介するのもこのエディションだ)された際に、何があったのかはわからないのだが脚注がすべて巻末に纏められてしまうことになったようだ。これは、初学者が読むにはちょっとどころじゃなくて不便だし、あまり好ましいことではない。正直これは筑摩書房の編集者の怠慢としか言いようが無い。
ただ、内容については先述の通り申し分ない素晴らしいものだ。新聞などで経済についてよく触れられるトピックについて、真っ当な経済学の観点から説明した本文(そして繰り返しになるけどもとってもくだけてるが読みやすく平易な翻訳)は経済学を勉強している人のみならず、社会人でも是非一度読んでほしいところだ。おそらく、新聞の経済記事がより一層わかりやすくなるだろう。
また、巻末の「日本がはまった罠」については、リフレ政策を現政権が提示している中で、その原理について知るには良い内容だろう。こちらについては、若干数式が出てくる分ちょっと難しいが、本書を読み通した読者であればなんとかなるレベルの内容だ。リフレ政策に賛成の立場に立つにせよ、反対の立場に立つにせよ、その理論の部分を知っておくのは損なことじゃない。ただし、著者は(というか訳者も)インフレターゲティング論賛成の立場として有名な人物であるので、そこを割り引いて読むべきではある。
今経済学を学んでいる学生さんをはじめ、経済というものが今一つよくわからないという社会人も是非一度手に取ってみて欲しい。もやもやした経済というものについて、骨太な知識が得られるはずだ。

格差社会 何が問題なのか(橘木俊詔/岩波新書)


京大で教鞭をとる著者による、日本の「格差」問題についてデータをもとに分析した一冊。
いわゆる「格差」問題というのは、どうしてもイデオロギー的な側面とやっかみを中心とした嫉妬がからみ冷静な分析というのがとても少ないのだが、本書はこれに対して極めて冷徹かつ丹念なデータ検証を行って述べており、読むべき報告になっている。
特に日本がすでに「低福祉・低負担」の「小さな国家」になっているという指摘は、読者によっては目からウロコもんだろう。また、格差の拡大が実際にどのような弊害をもたらすかという著者の意見は拝聴に値すると言える。
本書は「格差」に対して批判的な立場からの意見だ。そういう意味では割り引いて考える必要もあるだろう。ただ、根拠レスに「競争がすばらしい」と述べている連中よりはよっぽど信頼できるエビデンスを持ち出していることは特筆に値する。実際に格差は新自由主義的な政策によって「格差」は拡大しているし、その弊害も発生している。そして、肝心のセイフティ・ネットである「福祉」もますます縮小している。それが正しい状態なのか? それを議論するための入り口として最適な一冊だと思う。

アメリカ下層教育現場(林壮一/光文社新書)


ボクシングのプロテストに合格したのち、週刊誌の記者を経てノンフィクションライターになった著者による、アメリカの底辺校での教育とカウンセリングを行った経験を綴った一冊。制度問題や提言というよりも、ありのままの体験談として捉えた方が良いと思う。筆者が教鞭をとったチャータースクールというのは似たような制度が日本にないので説明がややこしいのだが、公設民営の学校というのが一番ピンとくると思う。特定の目標を掲げて政府から認可を受けた民間の団体が学校を運営する感じ。といっても、実の所公立学校を単純にコストダウンで民営化するために使われたりするケースがあったりするらしいので一概には言えない。
本書に描かれているアメリカの底辺校の事情は、日本のそれとは比較にならない。簡単に言ってしまえば、クロマティ高校がまだまともに見えてくる。ちょっと誇張が過ぎる気もするが、そんなレベルだ。さらに言えばそんな状況で日本の大学のような授業履修スタイルだもんだから、そりゃ、もう凄まじい。一般的な日本人が知るアメリカの高校像・・・オギョーギの良い坊ちゃん嬢ちゃんたちのキャッキャウフフな世界・・・とはとてもとてもかけ離れた世界だ(ちなみにアメリカの学校全般が、物凄く仲良しグループ単位で動いているので、日本の学校以上にスクールカーストが酷かったりする。海外物ドラマで描かれる世界は一応絵空ごとと知っておいた方がいいだろう)。
これを読んで、アメリカの底辺校の実体を知るなんてことは考えない方がいい。あくまでも底辺校の一つの姿だし、実際もっとうまくいっている(まあ、そういう所は往々にして学費が高いんだけどさ)ケースだってある。それでも、一般的に思い浮かべるアメリカの学校というものが、どれだけ特殊なものかということを知るサンプルにはなると思う。